乙武洋匡「だいじょうぶ3組」のおかしな点を小学校教員経験のある私が一つ一つ指摘する、今更ながら。

投稿者: | 2017年4月15日

乙武洋匡氏が自身の小学校教員の経験から執筆し、2010年に出版された小説、「だいじょうぶ3組」。

乙武氏自身も出演し、映画化もされました。

物語は、五体不満足の教師・赤尾が5年生の担任となり、物隠しや不登校に遭遇しながらも、運動会、水泳、遠足等を通じて子どもたちとともに成長していく物語です。

しかしこの物語、元小学校教員の私から見ると、野暮なのかもしれませんが、それおかしいだろ!というツコッミどころ満載です。

もちろん物語なので、「そういう世界(虚構)の話なんだ」と言われたら一切反論できません。しかし、読者の多くはそうは思って読んでいない人が多いと思いますので、今回は色々と本作品についてツッコんでいきたいと思います。

 

◆5年3組?

松浦小学校に着任した赤尾は、5年3組担任に指名されます。

「五年一組、青柳秀子先生」

「五年二組、紺野鷹志先生」(中略)

五年三組、赤尾慎之介先生。介助員として白石勇作先生」(出典:プロローグ P13)

私はいきなりここで2つ、違和感をもちました。

五体不満足の教員を宿泊行事のある高学年の担任にする?というのが一つ、もう一つは3組にする?というものです。

学年主任は1組の青柳先生です。青柳先生は赤尾の指導教官にもなるはずなので、普通に考えれば隣のクラス(2組)にするはずです。既にクラスがある偶数学年と異なり、奇数学年はいくらでも動かせますから。

 

◆板書

第三章では、不登校児童のために道徳の授業を行うエピソードが描かれます。

「今日は、こんな授業をしようと思っています」

その声に合わせて、白石が黒板の右端にこの日の授業のタイトルを書いていく。(出典:第三章 それって、ヘン? P87)

この描写で、そうか、乙武氏は自身で板書ができなかったのか、と気づきました。

これはおかしな点というより疑問ですが、小学校の授業の場合、教員は子どもたちの理解のために板書しながら説明したり、板書でノート指導をしたりする必要があるので、大変だっただろうな(大丈夫だったのかな?)と思いました。

 

◆学年主任を飛び越して校長へ

初日、赤尾は桜が咲く校庭で学級会を開くのですが、学年主任に相談もしないで行います。

「根回しって、あの学年主任にかよ。あのオバハン、とても花見しながら学級会なんていう話には乗ってこないと思うけどな」

と言い、学年主任を飛び越して校長から承諾を得ます。

そして、学級会後、次のように学年主任に言われると、

「学年でバラバラのことをやっていると、すぐに保護者から『なぜあのクラスではやって、うちのクラスではやらないのですか』などと問い合わせが来てしまうんです。そうした声に対応するのもわたしの仕事になってくるんですよ」

この発言に対して、

ここで赤尾はとっておきの返答を取り出した。「ああ、すみません。でも、校長先生はOKだとおっしゃっていましたよ」(出典:第1章 フツーじゃない先生 P34~39)

と言い放つのです。

まず、初任者で初日から学年主任(指導教官)に相談もせずに喧嘩売るとか、現実だったらただのバカです。どうしても譲れないことならまだ理解できますが、校庭での学級会とかいわばどうでも良いことで切るカードではありません。

それから、校長の対応がおかしいです。常識をわきまえた校長なら、学年主任に相談したの? って聞くし、OKするにしても学年主任に伝えてからやってね、と言うはずです。

このエピソードからは小学校の現場が保護者からのクレームを恐れるあまりに何でも揃えて画一的になっている問題も提示していますが、それよりも現実ではあり得ない根回しの方が私は気になってしまいました。

 

◆徒競走の目標

徒競走で一位になるという運動会の目標を立てる赤尾。

「先生、こんなこと考えた。全十四レースで三組が一位を独占する——これをクラスの目標にしないか? たとえば、最後の十四レースには、康平と陽介が出るだろう。ふたりのうち、どちらかが一位になればOK。それをぜんぶのレースでやっちゃうんだ」(出典:第四章 ナンバーワンになりたくて P115)

しかし、現実の小学校では、運動会の練習時間の9割以上を占めるのは、表現運動です。表現運動というのは、ダンスとか民舞とか組体操とかのことです。

表現の練習時間が20~30時間行うのに対して、徒競走の練習なんてたった2~3時間、それも並び方がほとんどで走る練習などしません(出来ません)

また高学年であれば、休み時間や放課後等、応援団やリレーの練習、委員会の仕事など忙しすぎて、徒競走の練習時間など取れないのです。

まあ、その現実を批判する意味でこのような目標を立てているのなら良いのですが、現実の小学校現場とはちょっとズレている目標なのではないかと思いました。

 

◆ストーブをつけると風邪をひきやすくなる?

ストーリーとは直接関係ない描写ですが、ちょっと意味が不明です。

ほかのクラスではインフルエンザの影響もあって欠席者が相次いでいるが、三組は今日も全員出席。「空気が乾燥して風邪をひきやすくなるから」と、なかなかストーブをつけない赤尾の方針が、もしかしたら功を奏しているのかもしれない。(出典:第8章 みんなちがって、みんないい P276)

していません!関係ないです。

教室って、ストーブつけようがつけなかろうが、超湿度低いです。

であれば、体温が下がらない方が免疫力も下がらないので、ストーブつけた方が良いです。

 

◆バレンタイン特別ルール?

最後は、学校でのバレンタインチョコの受け渡しについて。赤尾は事前に学年主任の青柳に、

「学校でのそうしたやり取りは禁止。どうしてもやりたいなら、放課後ご自由にどうぞ、となってるんです」

とバレンタイン禁止を伝えられていたにもかかわらず、子どもたちに5年3組特別ルールを伝えます。

「ほかのクラスには、ほかのクラスのルールがある。そのあたり、みんなならわかることだよね」

この”バレンタイン特別ルール”があくまでも五年三組だけのものであることを伝え、青柳が担任する一組をはじめ、ほかのクラスに迷惑をかけることがないよう釘を刺した。

もう、これは、クラスを私物化している証拠です。

学校で禁止されているのに、ほかのクラスに迷惑がかからないなんてことはあり得ません。情報は絶対にどこかから漏れるので「3組は良いな~」となるし、この子たちが進級したときに「前の担任は許してくれたのに」とか言い出して、次の担任や他のクラスの担任が困ることになります。

赤尾は、学校のルールに反して特別ルールを設定した理由について、

けっして転ぶことがないようにと、子どもたちが歩んでいく道からすべての問題を取り除てしまう学校のあり方には納得できなかった。嫉妬や、葛藤や、もどかしさ――そうした感情を経験させないまま子どもたちを社会に送り出すことのほうが無責任と感じたからこそ、赤尾は学校のルールに反してまで、チョコレートという火種をあえて教室に持ちこませたのだった。(出典:第8章 みんなちがって、みんないい P276~280)

としていますが、何でもかんでも学校がやるという考え方が間違っています。

学年主任・青柳の「どうしてもやりたいなら、放課後ご自由にどうぞ」が正論だと私は思います。

 

★まとめ

と、悪い点ばかり指摘してきましたが、この作品がまるっきりダメかというとそうではありません。

子どもとともに成長していく赤尾の物語をエンタメ性をもって楽しめるし、

  • 物隠しをする子どものSOSを発している心理
  • 障害者である自身の経験を踏まえた道徳の授業
  • 子どもに努力させるだけでなく、まずは自らが努力する姿勢を見せる水泳の授業
  • 転校生が出たときの担任のショックが年々少なくなっていくベテラン教員の寂しさの描写

なども素晴らしいと思いました。

また、次のような教員の世界を知ることのできる正しい描写も評価できます。

一年生を迎える会、運動会、そして水泳指導。教員一年目の赤尾にとっては、すべてがはじめての経験だった。子どもの頃にはただなんとなく参加してた行事でも、その裏側では教師たちがこんなにも膨大な時間と労力をかけて打ち合わせを行い、準備を進めていたのだということに、赤尾は大きなおどろきを覚えていた。(出典:教授の憂うつ P146)

子どもの頃は、「先生って夏休みが長くていいな」などとのん気なことを思っていたが、とんでもない話だった。職員室でずっと電話番をつとめながら、各教室で飼っている生き物にえさをやったり、植物に水をやったりする日直。夏休み中のプールに通ってくる子どもたちの指導を担当するプール当番。夏休みといえども、学校に行かなければならない日は想像以上に多くあった。だが、赤尾がもっとも時間を奪われたのは、日直でもプール当番でもなく、「初任者研修」と呼ばれる一年目の教員を対象とした研修だった。連日、市内の小中学校に勤務する新人教師が市の教育センターに集められ、朝から晩まで講義を受ける。(出典:第六章 てっぺんまで P187)

ただし、物語なので仕方がないとは思いますが、ドラマ性のない、しかし最も時間を奪われる校務分掌や研修、校内研、保護者対応などはほとんど描かれません。

ですから、いないとは思いますが、くれぐれもこの物語で描かれる仕事が小学校教員であるように思わない方が良いでしょう。

というわけで、以上、元公立小学校教員トウワマコトによる、「『だいじょうぶ3組』のおかしな点を小学校教員経験のある私が一つ一つ指摘する、今更ながら」でした!

関連記事:乙武洋匡「ありがとう3組」のおかしな点を小学校教員経験のある私が一つ一つ指摘する、今更ながら。

 


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