「出席停止」を適切に運用するためにきちんと予算をつけ、公立学校の教師にも学校の秩序を維持する“手段“を与えるべき

今、多くの公立学校では学校の秩序を脅かす児童・生徒に対する対応に頭を悩ませている。授業を妨害し、真面目な子どもたちの学習する権利を奪う児童・生徒である。本来であれば何らかの対応により一刻も早く教室の秩序を回復させるべきなのだが、簡単にはいかない。

なぜか。

それは、公立学校の教師が「秩序を維持する”手段”を与えられていない」からだ。非常にシンプルである。

◆秩序を維持する”手段”をもたない公立学校

一昔前なら「体罰」という手段によって秩序を維持することが許されていた。しかし今では許されない。

私立学校ならば「退学処分」という手段もあるが、公立ではそうもいかない。

にもかかわらず、教育委員会は「指導力の向上を」と連呼するだけで、問題解決の助けにはならない。

確かに教師の指導力が向上することで解決するレベルの児童・生徒も多くいるだろうが、その一方で教師の「指導力」なんかでは到底太刀打ちできないレベルの児童・生徒が存在するのも事実だからだ。

公立学校の教師は、私語・立ち歩きで授業妨害をしたり、消火器を暴発させるなど施設や道具の破壊を行ったり、著しく校内の秩序を乱し、公共の福祉に反する児童・生徒に対して太刀打ちする術をもたされていない。

諸外国ではこのような問題に対して、学校を勉強する場である(教師は勉強を教えるのが仕事である)という社会全体の共通認識のもと、子どもの問題行動に関してはすべて「保護者の責任」とする国もある。

しかし、本邦ではそのような考え方は浸透していない。それどころか、保護者に学校での実態を伝えようものなら、「家では良い子、学校のやり方が悪い」と逆にクレームを招きかねない、これが今の日本である。日本では「保護者の責任」という手段はないのだ。

◆「出席停止」という”手段”もあるのだが・・・

さすがにこのような状態はマズいだろうということで、2001年の学校教育法改正により『出席停止』という制度ができた。これは性行不良の児童・生徒の保護者に対して、市町村教育委員会が出席停止を命ずることができる制度である。

性行不良であって他の児童生徒の教育の妨げがあると認められる児童生徒があるときは,市町村教育委員会が,その保護者に対して,児童生徒の出席停止を命ずることができます。

(出典:文科省「出席停止制度の適切な運用について」

適切に運用していけば、公立学校の教師に学校の秩序を回復させる”手段”を与えるものであるのだが、制定から18年たった現在でも現場ではほとんど運用されていない。

例えば、『平成28年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に対する評価』という文科省の報告書によると、2016年の全国の小学校で適用されたのはたったの4件だ。(少なすぎる!)

現場でなかなか運用されない、その大きな要因の一つは、「出席停止のための予算がつけられていないこと」にある。

出席停止を運用した場合、当該の児童・生徒にはその期間も「学校が」別途教育を行わなければならない。当該児童・生徒は出席停止を受けても、教育を受ける権利は残るためだ。

しかし、学校が別途教育を行うにしても教員たちは当然授業があるわけで当該の児童・生徒のためだけに一日中つきっきりになることはできない。

出席停止のための予算がつけられないなかで、学校側としては「運用したくても、現実的に運用ができない」というのが実情なのだ。

例えば、予算を組んで、出席停止中の指導を行う教員を学校に派遣したり、出席停止中の児童・生徒が通学できる施設がつくられれば、現場は適切に運用していくことが可能になるのだろうが、そうはなっていない。

しかし予算を組む必要性は十分にあると思う。

例えば、前述のような役割の教員ができれば、出席停止を課された児童・生徒の支援を行うこともできる。(問題行動を行う児童・生徒の多くは、発達上の特性や家庭の問題など彼ら自身が困っている場合も少なくないからだ。)これを機に専門機関につなげたり、保護者の相談に乗ることもできる。

予算をつけるべきだし、予算のつけない制度など絵に描いた餅に過ぎない。

◆最後に

今、公立学校の現場は出席停止を「運用したくてもできない」という状態にあると思う。みだりに乱発する必要はないが、制定趣旨にのっとり適切に出席停止を運用していく必要がある。

出席停止を適切に運用していくことで、教師に学校の治安維持の”手段”を与えれば、次のようなメリットも享受することができる。

  • 教師の体罰のリスクが減る(いざとなったら出席停止があると思えれば体罰に頼る必要がなくなる)
  • 公立中学の“治安”が不安で中学受験せざるを得ない層が公立学校に通うことができる
  • いじめ加害者にも適用していくことで、いじめ被害者が不登校になるような現状を変えられる
  • 先に述べたように、問題行動を起こす児童・生徒及び保護者に反省を促し、必要であれば支援につなげることができる

文科省は予算を、各教育委員会は現場が適切に出席停止を運用していけるように現場を支援すべきである。

指導力の向上」だけではどうにもならない。