坂本祐之輔議員(立憲民主党)
現在の教育の時間外勤務が「ただ働き」となっているのは、これは給特法の問題ではなく、文部科学省による労働基準法32条の解釈によってもたらされているからです。そうしないと、仮に給特法が廃止されたとしても、その時間外勤務が労働時間じゃないと言われてしまって、超過勤務手当の支給対象にもならない。
こちらの学校では「これは残業だ」、でも別の学校では「これは残業にならない」といったことが起きた場合には、やはり教職員の不平等につながるのではないかという議論が進んでいるんだと思います。ですから、部活動も基本的にはなくて、教員は定時で来て定時で帰るのがもう当たり前だと。
桂原参考人にお伺いいたします。先ほどの意見陳述の中で、香港日本人学校に勤務していたとのことですが、現地やインターナショナルスクールと日本の学校とは、具体的にクラスサイズや業務はどのように違ったのでしょうか。お伺いいたします。
桂原参考人
もう25年も前の話ですから、今現在はどうかはちょっと承知しておらないところがあるんですけれども、まずクラスサイズはどのインターナショナルスクールも1クラス20人から25人。本国も同じだという風に言ってました。
業務については、教員はやはり授業が中心で、例えば子供の相談はカウンセラーが担い、様々な子供の課題についてはソーシャルワーカーが必ず1校に1人配置されていて、分業が進んでいるんだと。
ですから部活動も基本的にはなくて、地域のスポーツクラブ等で子供たちは活動するんだと。教員は定時で来て定時で帰るのがもう当たり前だということで、それは本国も同じだという風にインターナショナルスクールでは言っておりました。以上です。
坂本祐之輔議員(立憲民主党)
私たち立憲民主党は、給特法は廃止するべきであるとの立場でありますけれども、給特法を廃止して教員が労働基準法のもとで働くとなった場合、学校はどのようになると予想するでしょうか。戸ケ崎参考人から順にお願いいたします。
戸ケ崎勤(戸田市教育長)参考人
率直に申し上げますと、先ほども私の意見の中で申し上げましたけれども、まずは学校の中がですね、正直かなり混乱をするんではないかなという風に考えております。
それは、基本的に時間外勤務を命じるということは、現状でも学校長の承認を得るということになっていますので、そこのところが給特法を廃止されて、時間外勤務がもうごく当たり前のようになるということになると、どこまで認めるのかということに対する線引きがなかなか難しいという現象も起きるのかなと。
加えて、費用の問題もあります。監督権者と任命権者の問題もあって、正直、残業代というのは基礎自治体である市町村の教育委員会はあまり痛まないんですけれども、任命権者である県教育委員会にとってみると、そこの支払いというところでギャップが出てきて、ねじれ構造が出てくる。そういうところでもまた様々な問題が起きてくるのかなと。
さらにもう一つ加えて申し上げますと、一生懸命効率的に仕事をして、できるだけ早く切り上げて帰っていく、タイムマネジメントをしっかりやろうという教員と、そうではなくて、のんびりと勤務すればいいんじゃないかっていう風に考える教員が、給与面での差が開いてくるという現象も起きてくることも懸念しているところでございます。
梶原参考人
私は給特法と労基法の両方を経験しておりますので申し上げますけれども、労基法に学校現場が移行したからと言って、直ちに長時間労働が是正されるわけではないと思っております。
ただ、割増賃金が払われることで労使双方で時間を意識した勤務がなされることは確実で、今よりも長時間労働が縮減できると考えております。
他方、教員が労基法で働くことには誤解が生じているとも思っております。例えば、子供と対応していて、定時になったら「はい、じゃあもうそこで終わり」と言って帰るようなイメージがありますけれども、そんなことは全然なくて、そのために36協定を結ぶわけです。
例えば月45時間の36協定を結んでいるとすれば、子供の対応や採点業務等で1日3時間オーバーした、それが10日間あった。月の半分ぐらいで30時間を超えている、リミットまであと15時間といった時には、そこはかなり精密に管理して、たとえば15時間を過ぎる、または20時間を過ぎるとアラートが飛んでくるようなシステムを、私どもの職場でも採用しています。
その時点で管理職と教職員が対話をして、「じゃあ後半ちょっと45時間まで危ないから、月末にある事務処理はこの先生に代わりにやってもらいましょう」とか、そういうマネージメントがコミュニケーションをしながら労使でできるというところが非常に重要なことだと思っております。
労基法に移行すれば、完全にキャップがかかりますので、そのキャップの中で仕事ができるような人を増やすとか、または業務を削減するとか、そういうインセンティブが働きますので、確実に学校の長時間労働は是正されると考えております。
また、学校や管理職によって「この業務はこの学校では超勤命令になる、別の学校ではならない」といった差が生じて混乱が起きるという論がありますが、これは学校によって課題も違いますし、目指す学校像も違いますから、それは差が出て当然だという風に思っております。
最後に、給特法下では高度専門職として指揮命令ではなく裁量を発揮する、創造性を発揮することが求められていると言われておりますが、現在の学校はこなす業務が多すぎて、裁量とか創造性をなかなか発揮できていないというのが実情です。
学校現場と国会での議論の間にかなり乖離があるんじゃないかという風に思っております。以上です。
渡辺陽平(全日教連委員長)参考人
様々な意見がありますが、まず私としましては、前提として教師の仕事は自発性・創造性に基づく面が非常に大きいと考えています。
例えば、緊急を要する保護者からの相談を受けるために保護者の帰宅時間を待って学校で相談を受けたり、様々な学年や教科で多様な子供たちに対応する授業を行うためには、その都度授業準備にかける時間も違ってきたりします。
また、最近さまざまな自治体で管理職不足が叫ばれている中で、ますます切り分けをしなければならない管理職の負担が増え、管理職の成り手が不足してくるのではないかという風に思います。
各学校において、管理職がこの業務を切り分けるということが、やはり管理職の判断によって差が生まれてくるのではないか。こちらの学校ではこれは残業だけど、別の学校ではこれは残業にならないといったことが起きた場合には、やはり教職員の不平等につながるのではないかということも懸念されます。
このように非常に難しい職である教職に対しては、やはり教職調整額がふさわしいのではないかという風に考えています。
ですので、給特法を維持しながら働き方改革も、今般の法改正に伴ってしっかりと進めていただきたいという風に考えております。
高橋参考人
私も給特法廃止というのは一つの選択肢かと思っておりますが、そこには懸念もございます。と言いますのは、私は給特法に関わらず、現在の給特法のもとでも超勤4項目以外の業務には超勤手当を支給し、36協定を締結することで、超勤4項目以外の時間外勤務に関する労使合意を取るということが必要だと思っております。
これを明確にしておかないと、先ほど申し上げましたように、現在の教員の時間外勤務が「ただ働き」となっているのは、給特法の問題ではなく文部科学省による労働基準法32条の解釈によってもたらされているからです。
そうしないと、仮に給特法が廃止されたとしても、その時間外勤務が労働時間じゃないと言われてしまって、超勤手当の支給対象にもならないということがあります。
なおかつ、教員の給与に関する基準立法というものでもないと、超勤手当の支給義務だけが現在の自治体に課せられて、今あるパイで超勤手当を出すということになると、これもやはり基本給が削られることになります。
ですので、給特法の廃止をするだけではなくて、あらゆる立法措置が必要です。そうでないと、そもそも基本給が削られ、教職調整額も廃止され、なおかつ超勤手当も支給されないという、最悪のディストピアが現実となる、ということを申し述べたいと思います。以上でございます。