船後靖彦議員(れいわ新選組)
本日は「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律案」についてお伺いいたします。
まず、今回の法改正の経緯と目的をお伺いいたします。給特法改正では教員の残業の上限を月45時間、年間360時間以内とする指針に沿って、自治体が条例によって1年単位の変形労働制導入の判断をすることとなりました。
しかし、教員勤務実態調査では、教員の時間外勤務時間(自宅での持ち帰り仕事を含む)は、小学校で約84時間、中学校で約107時間と、過労死ラインである80時間を上回っている実態が明らかとなりました。
このように過労死ライン下の長時間労働が長年放置され、教員の精神疾患による病気休職者が過去最高になるなど、長時間労働が蔓延する現状に対して、「学校=ブラック職場」というイメージが定着し、教員志望者が減少しています。
今、教員の働き方改革と待遇改善を進めなければ、教員不足によって学校教育が崩壊しかねないという危機感のもと、今回の法改正に至ったと認識していますが、大臣のご認識はいかがですか。
あべ文部科学大臣
学校教育は教師にかかっておりまして、教職の魅力を向上させ、教師に優れた人材を確保することが不可欠だと考えております。こうした公教育の要である教師を取り巻く環境は、依然として大変厳しい状況であり、この現状を改善しなければ、ご指摘の通り、我が国の教育の質の低下を招きかねないという強い危機感を持っております。
このため、教職の魅力を向上させ、教師に優れた人材を確保するためにも、学校における働き方改革を進め、教師が高い専門性を最大限に発揮して教育活動を行えるようにするとともに、教師の職責にふさわしい処遇改善等を図ることを目的として、今回の法案を提出し、教師を取り巻く環境整備を着実に実行してまいりたいと考えております。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
指針で教員の残業の上限を月45時間、年間360時間以内としたにもかかわらず、実態はその倍以上。そして、1日の休憩時間は平均23分。恒常的な土日や自宅での持ち帰り仕事。こうした実態があるにもかかわらず、誰も責任を取っていません。
その原因は、給特法に規定された「教育職員の職務と勤務態様の特殊性」に基づき、時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない。その代わりに、一律4%の教職調整額を支給するという、いわゆる「定額働かせ放題」の制度にあります。
衆議院での議論でも、教員の勤務実態について労働基準法との関係から様々な質問が寄せられました。文科省は、変化の激しい子供たちに日々対応する教員の仕事は柔軟性と裁量性が大きく、教員は自らの専門性・自立性を発揮して仕事をするもので、管理職が一つ一つ職務命令を出して業務を行うものではない。時間外勤務を命じることのできる超勤4項目以外は、管理職の指示なく行った場合、使用者の指揮命令下における労働時間に該当しない「自発的勤務」、要するに「自己責任」だというわけです。
一方で、教員の勤務実態を把握し健康の維持管理をするために、超勤4項目以外の公務時間、自宅での持ち帰り時間も含めて時間管理の対象としていると説明されています。また、給特法第3条では残業代を払わないと規定されていますが、文科省も労基法で定められた最低基準である「1週間の所定労働時間40時間」「1日の休憩時間1時間」は教員にも適用されるとしています。
今回の法改正の目的が、多数の休職者や離職者を生み、教員志願者の減少によって教員不足を引き起こした教員の長時間労働を何とかしようというのであれば、まずは時間外勤務を減らすことが最重要課題です。
給特法改正時に参議院決議では、調査を行った上で、給特法の抜本的見直しに向けた検討を加えることとされています。勤務実態調査で、いまだに過労死ラインを超える長時間労働の実態が明らかになった以上、この「定額働かせ放題」は撤廃し、勤務にはきちんと残業代を払う仕組みに変えるべきです。
教職調整額を4%から毎年1%ずつ10%まで引き上げることは、多少の待遇改善にはつながっても、旧特法の枠組みを6年間温存することになり、問題の解決にはつながりません。大臣、いかがですか。
あべ文部科学大臣
まさに教育活動においては、日々子どもたちと接している教師の創意工夫が重要であり、今回の給特法に関しては、労働基準法・地方公務員法の特別法として、管理職の職務命令によるのではなく、教師が専門性を発揮して業務を遂行し、教師の裁量を確保する仕組みとして、給与その他の勤務条件について特例を定めたものです。
給特法において、こうした職務の特殊性を踏まえた上で、時間外勤務手当ではなく、勤務時間の内外を包括的に評価するものとして教職調整額を支給することになっています。
今回、中央教育審議会において1年以上にわたって法制度の枠組みを含めた総合的な議論が行われ、その結果を踏まえて、給特法を維持した上で、高度専門職としての教職の職務の重要性にふさわしい処遇を実現するために、教職調整額を10%に引き上げるとともに、働き方改革のさらなる加速のための仕組みを構築することも盛り込んだ改正案を提出したものでございます。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
教員が長時間労働するのは自己責任ですか? 結果、病気になるのも自己責任ですか?
(以下、事前に準備した原稿を朗読いたします)
時間外勤務を禁止しておきながら、同様の業務についても学校教育活動に関する業務として勤務時間管理の義務付けをしています。これは「自発的行為」ではなく、「労働時間」だと文部科学省も認めているということではないでしょうか。
好きで残業する人はいません。やらなければならない業務だから身を削っているのです。それなのに残業代すら支払われないのです。教職調整額と引き換えに、ほぼ無制限に善意で時間外労働を強いられている教員の働き方、大臣は異常だと思われませんか? 変えませんか? 答弁お願いします。
あべ文部科学大臣
令和元年の給特法改正以降、文部科学省におきましては、教員の在校等時間の上限を定め、客観的な勤務時間管理の徹底等を含め、求める指針を策定しました。また、学校や教員が担う業務に関わる三分類に基づき業務の精査・見直しを行い、小学校の35人学級など教職員定数の改善を含め、学校における働き方改革を進めてまいりました。その結果、在校時間の客観的把握が行われるようになり、勤務時間管理が進みました。令和4年度の勤務実態調査では、教員の時間外在校時間を減少させることができたところでございます。
しかしながら、依然として在校等時間の長い教員も多く、教育委員会によっては取り組み状況に差があることから、取り組みをさらに加速させていくことが必要です。今回の法案においては、給特法の仕組みを維持した上で、教師の勤務時間管理の責任を有するすべての教育委員会に対し、教員の業務管理や健康確保のための計画策定とその実施状況の公表等を義務付けるなど、働き方改革のさらなる加速化のための仕組みを構築することとしているところです。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
今回の改正案では、学校における働き方改革の一層の推進として、教育委員会に対し、教員の業務管理・健康確保措置のための実施計画の策定、公表、計画の実施状況の公表を義務付けています。しかし、時間外在校時間を減らすために、管理職による退勤の強要による持ち帰り残業の増加や、出退勤記録の改ざんなどが懸念されます。
名古屋大学の内田先生らによる小中学校教員を対象とした業務調査によると、自治体の出退勤調査では勤務時間の虚偽申告を求められたことがある人は6人に1人いるとのことです。また、自治体の調査では休憩時間中の労働や持ち帰り仕事の時間が調査対象になっていません。
さらに、4月22日に行われた日本労働弁護団主催の集会で、岐阜県の現役高校教師である西村先生は、給特法の枠組みの中では教員自身が出退勤時間の管理をおざなりにしてしまっていると報告されています。
岐阜県の小中高校の教職員を対象とした調査によると、タイムカードの打刻を「正確にしている」人は少数で、「正確でない時がある」が一定数、「ほとんど正確でない」がさらに一部いました。正確に報告しない理由として、「勤務改善につながらない」「課される報告を避けたい」「目的が明確でない」「管理職からの暗黙の圧力」などが挙げられています。
つまり、教員の業務を把握しても、給特法による定額働かせ放題の枠組みの中では改善につながらないと教員は分かっているのです。教員の業務管理・健康確保措置実施のための計画策定、公表、実施状況の公表義務付けは、教員の長時間労働が改善されないことに対して、国も学校設置者も校長も誰も責任を取らない現状において、一定の前進とは考えます。
であればなおさら、把握した教員の時間外勤務を自発的勤務として一律の教職調整額で処理するのではなく、時間外労働として残業代の支払いを通じて、労働時間規制を実効化させることが必要ではないでしょうか。大臣、いかがですか。
あべ文部科学大臣
まさに教師が専門性を発揮いたしまして業務を遂行し、裁量を確保するため、法におきましては時間の内外を包括的に評価し、職務調整額を支給することにしているところでございます。
この仕組みのもとにおきまして、教師の業務量を把握・改善していくためには、令和元年の給特法の改正以来、タイムカード等を活用いたしまして在校時間の客観的な把握を求めてまいりましたところでございます。
令和元年におきましては、全国の学校におきまして客観的な方法で在校時間を把握している教育委員会の割合が約半数程度であったものが、現在ではほぼすべての教育委員会において所管する全ての小中学校等において客観的な把握が行われるようになっているところでございます。
また、在校時間を目標の範囲内にすることのみにこだわり、虚偽の時間を記録することや、記録させることはあってはならないことでございまして、この旨は現在の指針におきましても明確にお示しをしているところでございます。
今回の法案におきましては、給特法の仕組みを維持した上で、教師の健康福祉の確保に向けて、時間外在校等時間を縮減する仕組みを構築することとしております。
引き続き、指針で示します在校時間の客観的な把握また管理が教育委員会や学校の責務である点を徹底させていただきながら、在校時間を適切に把握した上で、教師が働く環境の改善が進むように取り組みを促してまいります。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
質問を続けます。
衆議院の審議の中で、教員の1ヶ月あたりの平均時間外在校等時間を30時間まで削減すること、そのために教員一人あたりの担当授業時数の削減、教育課程の編成のあり方の検討、教員定数を定める義務標準法の改正、教育活動を支援する人材の増員、部活動の地域移行に向けた財政支援などの措置を講ずることが附則に盛り込まれました。
また、公立中学校の35人学級実現が附則に明記されました。これらが実現すれば時間外在校等時間は減ると思われます。しかし、こうした措置のうち、一人あたりの担当授業時数削減、教員定数の改正で教員の数を増やす、中学校の35人学級実現のためには、教員の手を増やす必要があります。
けれども、現状では長時間労働が蔓延した学校のブラック職場のイメージが定着して、教員志望者は減少しています。資料をご覧ください。
小学校教員採用試験の倍率は全国平均で過去最低、中学校も前年度から減少、高等学校も減少となっています。特に小学校では2倍を下回る自治体が複数あり、秋田県では1.3倍と、教員の質を確保するどころか最低限の人員確保すら危うい状況です。
全国国立学校教職員組合の調査によると、始業式時点で全国の2割の学校で教員不足が生じていたとのことです。
1980年代に大量採用された教員が大量に退職し、また中途退職者も増えていることから、採用者数が増える一方で受験者が減少している現実があります。日本全体で労働力不足が深刻化し、大企業を中心に初任給を引き上げるなど、教員の人手不足はさらに深刻しかねません。
もちろん、教員は子どもたちの成長に直接向き合うやりがいのある仕事であり、給与面だけで教員志望のインセンティブが向上するわけではないと思います。しかし、教員のやりがいを支えるには、現在の長時間労働を改善しないことには、教員定数だけを増やしても教員不足は解消されません。
このままでは時間外在校等時間30時間以内を守らせるためのプレッシャー、「時短ハラスメント」が横行するだけのことになりかねません。大臣、このような中途半端な改正で、本当に教員の長時間労働を解消できるとお考えですか。
あべ文部科学大臣
まさに委員がおっしゃるように、人材不足の中で教員の魅力的な職場づくり、働き方を改革していくことが重要でございます。
教師の時間外在校等の時間を縮減するためには、学校における働き方改革をさらなる加速化を進めていきながら、学校の指導運営体制の充実を一体的に推進する必要があると私どもは考えています。
今回の法案におきましては、すべての教育委員会に対しまして、働き方改革の計画を策定し、また実施状況の公表など取り組んでいただくこととしておりまして、具体的には、学校・教師が担う業務に関わる分類に基づく業務の役割分担の見直しや業務効率化の徹底の他に、標準を大きく上回る授業の見直し、公務のDXの加速化、部活動指導員の配置、休日の部活動の地域展開などの取り組みを進めてまいります。
また、学校の指導運営体制の充実に関しましては、小学校における教師の持ち授業時数の軽減、中学校における生徒指導体制の強化のために必要な教職員定数の改善を、数年間で計画的に実施することに加えまして、教員の業務支援などの支援体制の配置充実を図ることとしているところでございます。
今回の法改正を通じまして、教師の時間外在校時間の縮減を進めるとともに、教師の職責にふさわしい処遇改善を行うことによりまして、教師を取り巻く環境を総合的に整備し、志ある優れた人材が教師を目指すことができるように、しっかりと取り組みをしてまいりたいというふうに思っております。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
私の事務所には全国の多くの現場の教員から必要な要望のファックスが届いています。一つを紹介します。
「子供たちのための仕事をしたいと思っていますが、授業の準備も十分できずに子供たちの前に立つことが多く、子供たちの話もゆっくり聞けません。一日の担当数が多すぎて、勤務時間中に授業の振り返りや準備、子供たちに向き合う時間が取れないからです。これまでの働き方改革では教員の長時間労働に歯止めをかけることはできません。長時間にブレーキをかける、残業を支給する制度がどうしても必要です。」
この訴えにあるように、通常の職場や私立学校、国立学校と同様に労働基準法に則り残業代を支払うことで、給与面と労働環境面で教育現場を魅力ある職場に変えていく必要があります。
一方で、教員の多忙化・長時間労働の根本原因にメスを入れないで残業代を払えばいい、あるいは教職調整額を増やせばいいというものではないはずです。
教員の多忙化・長時間労働の第一の原因は、学習指導要領で定められた学ぶべき内容の増加です。資料をご覧ください。
授業、学習指導は部活動指導のように校外の人材に任せるということはできません。まずは教員の本来業務である「教える」内容を精選し、授業のコマ数を減らす必要があります。そのために学習指導要領を改定し、カリキュラムオーバーロード、教える内容の過剰な状態を改善する必要があります。
これは教員の負担を減らすためだけではありません。外国語や道徳が強化され、教科書がどんどん分厚くなって学ぶ内容や時間数が増えている現在の状況は、子供たちにとっても容量オーバーの状態であり、授業についていけない子供、不登校の子供の増加にもつながっています。
学習指導要領の詰め込みすぎを解消し、教員が本来の業務である授業準備や子供に向き合う時間を確保することが、教員の働き方改革、教員不足の解消を進める本筋だと考えます。
大臣、いかがでしょうか。
あべ文部科学大臣
まさに授業をはじめとして、教師が教師でなければできないことに専念できる環境を整えなければいけないと私ども考えておりまして、この総合的な勤務改善を通じて時間外在校等時間を縮減することが重要でございます。
その上で、ご指摘の学習内容や標準授業時数は、子供たちの学習状況やこれからの時代に必要な能力などを総合的に考慮した上で、全体として教育の質の向上につながるよう検討すべきだと考えているところでございます。
この点につきましては、中教審に対して標準授業時数の弾力化、これに加えまして学習指導要領の解説、入試、教員用指導書の影響も含めた授業づくり全体を捉えて、過度な負担感が生じにくいあり方の検討を今まさにお願いしているところでございます。
具体的には、引き続き中教審で検討していくところでございますが、教育課程の改善と働き方改革の両立を図っていきながら、全体として教育の質の向上につながるよう議論を進めてまいりたいと考えているところでございます。
船後靖彦議員(れいわ新選組)
再読いたします。教員に定額で働かせ放題の状態で長時間労働を強いており、教員不足がますます教員の心身の健康を脅かしています。そうしたブラックな学校の状況が教員を目指そうとする学生の意欲を削ぎ、教員不足に拍車をかけるという悪循環です。こうした状況は、何よりも教育を受ける子供たちの学びや育ちに悪影響を与えています。
公立学校の危機的な状況は、先の法案では解決できません。給特法による定額働かせ放題をなくし、長時間労働に法的規制をかける、残業代支給へと抜本的に変えるべきだと申し上げ、質問を終わります。