フジテレビ系列福井テレビで放送された、ドキュメンタリー番組『聖職のゆくえ』。
番組では、福井県内の中学校にカメラが入って、教員の働き方について密着取材がされている。
その一場面、(この中学校はこの取材を受け入れることからも分かるように教員の働き方について注力されている校長先生なので)中教審の『働き方改革緊急対策』を受け、業務の削減を図るため、会議を開くことになる。
しかし、その会議での議論が、なかなか学校で業務が削減されていかない理由が如実に表れている内容だったので引用させていただく。
◆「宿泊学習って続けますか」
業務削減の候補に上がったのは、中学2年の宿泊行事。
宿泊行事とは、1泊2日で行われる学習で、宿泊での団体行動を通じて修学旅行の準備として位置づけられているとのことだ。
以下、議論の内容である。
教員A「宿泊学習って続けますか」
教員B「クラス替えもあるのでもう一回絆を深める、自然体験活動を入れるというようにしていきたい」
教員C「絆のためだけにやる必要はないかな…」
教員D「でも、いつもと違うと思うので、そういう場所で時間を守るとかクラスじゃない人のことを考えたりとか…」
教員A「これだけ授業時間が足りないと言っていて、それでも続けますか」
教員C「先生の負担はめっちゃ大きいと思う、修学旅行は決まっているから仕方ないにしても…」
教員E「修学旅行まで一度も体験活動なく何もしないで大丈夫でしょうか。生徒は泊まるだけで色々な不安があると思う」
教員C「小学校でも6年生で修学旅行をやっている」
教員E「小6から中3まで宿泊学習なしで、2泊3日で行くというのは、どうなんでしょう」
教員F「修学旅行を見据えて、練習をした方が良いのではないでしょうか」
結局、2時間に及んだ会議で、今年度は継続ということになったようだ。
◆「子どものため」になるかという論点では業務削減は不可能
この会議、なかなか業務を減らせない学校現場をよく表している内容である。(個人的には視聴者にこのように具体的なケースにおいて提示した番組の意味は大きいと思う。全国放送を希望する)
存在する行事はすべて「子どものため」であるに決まっているのだから、この中学校のように、その行事に意義があるのかどうかという方向で議論をしたら100%意義がある(継続)という結論にしかならないと思う。
つまり、この中学校の議論はその前提となる条件が整理されていないように感じた。
ここで必要とされる議論の前提は、「教員の全業務を勤務時間内に収まるようにするために、優先度の低い業務から選択していく」ことなのだ。
一つの行事を取り上げて、これは負担が大きいから削減すべきか、子どものために継続すべきか、という議論を実施しても、結論は「子どものために」実施すべきとなるに決まっている。
給特法を含む労働基準法を遵守するという前提が先にあり、その次に「子どものため」というように優先順位を整理していかない限り、仮に業務削減の意思があっても、業務削減は非常に困難である。この会議はそのことを如実に表していると思う。
この中学校を批判する意図はない(むしろ公開していただいて評価している)が、今後も学校がこのような議論を続けている限り、社会からは「教員は仕事を減らそうとしない」と思われて、見放されてしまうのではないだろうか。
教育委員会及び校長は一刻も早く、「教員の全業務を勤務時間内に収まるようにするために、優先度の低い業務から選択していく」という議論の前提を示すべきである。