【文字起こし】田中まさお×東和誠 給特法教職調整額引き上げ改正案の国会審議に思うこと【トウマコラジオ】


東和
法の一部改正案、教職調整額の引き上げについて田中先生と話していきたいので、よろしくお願いします。

田中
よろしくお願いします。

東和
今回の改正のメインは、毎年1%ずつ教職調整額を上げて最終的に10%にするという内容ですよね。これ、どう思われました?

田中
正直、言ってることがよく分からなかったです。例えば「在校時間を20時間以内に収める」とよく言われますけど、それ自体おかしくて。本来、時間外勤務はゼロであるべきですから。

東和
もともとの法の趣旨からすれば、残業はない前提ですよね。

田中
そうです。それなのに「20時間に収める」という発想自体がそもそもズレている。石破さん自身が特別法の趣旨を理解してないと思います。1%ずつ引き上げるということ自体、自己矛盾に気づいてないんじゃないですか。

東和
文科省や政府の認識としては、残業は教員が勝手にやってるものという考え方なんですよね。命令されたわけじゃないからと。

田中
そう。

東和
だから40〜50時間の残業も、「勝手にやってる」っていう認識。その上で20時間にしましょう、って話なので、向こう側には矛盾がないわけです。

田中
現場の先生たちの不満は分かってないか、分かってても財源などの問題で動けないから、こうするしかないという意識かもしれません。

東和
法律違反の状態であること自体を、分かってないのか、分かっていても正当化しようとしている感じがありますよね。裁判でも国が勝っていることもあって、話が逆戻りしてる印象があります。

田中
そうです。例えば埼玉超勤訴訟では、裁判所が「法は限界にきている」とはっきり言ってる。当時の萩生田文科大臣もその判決について記者に聞かれたとき、「法が限界に来ている」と言ってるわけです。それに基づいて改正すべきなのに、そうなっていない。他の議員もその判決をちゃんと読み込んでないように思います。判決は時間外労働は認められなかった一方で、一部は認められている。授業準備など一部は時間外労働として認められているのに、それを前提に議論していない。自主的という名のもとに、教員の労働を例外扱いする考え方がまだ根強く残っている。法的には「労働」か「労働でない」かしかないのに、「自主的」という第3の領域を設けてしまっている。大石議員だけは判決を踏まえた質問をしているように見えました。大石議員の立場は、「教員にも労働基準法が適用されている」というもの。労基法には「労働」と「労働でないもの」しかないから、自主的労働なんていうカテゴリーは存在しない、というわけです。

東和
でも政府の立場は違って、「教員は特殊だから自主的な労働もある」としている。

田中
その考えが、すべての国会答弁の前提になっている。だから議論が根本からずれてしまってるんですね。萩生田さんのときには、そういった自主的労働の線引き自体を見直すべきという話が出ていたのに、またそこが前提として扱われてしまっている。だから最低でも10%の教職調整額は必要なんです。それでも足りないかもしれない。文科省が10%と言ってるのは、そのくらいは出さなければ整合性が取れないからでしょう。

東和
10%は何時間分にあたるんですか?

田中
残業4%が8時間なので、10%は20時間分。つまり、20時間分の調整額を出さなければ、残業時間に見合わないということです。

東和
石破さんも「20時間に収める」と言ってますよね。

田中
そう。石破さんの「20時間」発言は、その10%に基づいたものです。文科省の内部で作られた数字でしょう。

東和
つまり、10%の教職調整額を出している状況で、実際の残業が20時間くらいになってるなら、残業代と同等と見なせる。そういう前提で「法の再検討」も可能になると。

田中
ただ、その前にちゃんと議論すべきなのは、「教員に労基法が適用されているかどうか」から始めることです。

東和
政府の見解では、労基法は適用されているけれど、一部除外されているということになってますよね。その除外部分が「自主的」な領域に当たると。

田中
ただ、その除外されているのは37条、つまり残業代の支払いに関する部分だけです。だからそこから、議論を始めなければなりません。給特法があるから、教員には残業代が出ません。これは事実です。

東和
なるほど、給特法の適用によって残業代が出ないと。でも実際には教員は残業してますよね?

田中
そうなんです。業務命令ではないって言い張ってるけど、実質的には残業してる。それも本来は労働基準法に基づけば、明らかに「労働時間」なんですよ。

東和
なるほど、命令されてなくても業務上必要でやっているなら、それは労働時間だと。

田中
そう。だから労働時間と非労働時間、この2つしか労働基準法にはない。中間領域なんてないんです。

東和
でも文科省は「自発的な時間」というような概念を持ち込んでますよね?

田中
それが問題。「中間領域」という勝手な概念を作って。厚労大臣に聞いたら「そんなものは存在しない」と明言してる。「労働」か「非労働」かのどちらかしかない。

東和
文科省が「中間領域」を捏造してると。

田中
そう。

東和
そして裁判所もそれにお墨付きを与えてしまった。だから「中間領域」が制度的に存在するような状態になってる。

田中
でも法的にはそんなもの存在しない。

東和
つまり、時間外にやってる業務が業務命令ではないから自発的、という理屈に無理があると。だって勤務時間中にやってた業務と同じことをしているのに、それが「自発的」だと扱われるのはおかしいと。

田中
そう。丸付けを例にしても、5時までは労働、5時以降は自発的って変な話でしょう。同じ業務をしているのに、時間が違うだけで扱いが変わるなんておかしい。他の議員もこの問題には言及してますけど、そこまで深くは理解していない印象ですね。表面的な言葉だけ引用して、深いところまで理解していない。例えば、国立と公立の教員で法の適用が違うのはおかしいっていう主張、あれは私の主張を表面的に真似ただけ。

東和
なるほど。

田中
でも大石議員だけは、ちゃんとそのロジックを理解してるように見えますね。彼女は労基法と給特法を照らし合わせて考えてるから本質を捉えてる。他の人は文科省の論理を受け入れて、自発的時間があるという前提に立ってる。厚労大臣も「労働時間と非労働時間しかない」と言ってるわけですから。だから私は文科省じゃなくて、厚労省を相手にすべきだと思ってます。文科省とずっとやってきたけど、結局は厚労省の問題かもしれない。

東和
でも給特法自体が「第3の概念」を作っちゃってるっていう側面もありますよね?

田中
そう。

東和
そして裁判所がそれにお墨付きを与えたのが問題。

田中
だからもう給特法は廃止するしかない。中間領域を無くすには、それしかないんです。今回、調整額を1%ずつ上げて最終的に10%にするって話ですけど、それって現状を追認してしまうことになる。だから私はこの案に反対です。3000円のために働くなんて馬鹿らしい。むしろ否決して来年しっかり10%にするべき。

東和
給料が増えるって見方で賛成する人も多いけど、それが本当に教員の働き方改革になるのか、確かに疑問ですね。

田中
認めてしまったら今までの議論が無駄になる。今回は否決して、本質的な改善に向けた議論をすべきです。

東和
なるほど、配案にすべきという主張には筋がありますね。

東和
自民党とか政府が、野党が廃止せよって言ってるのに、「今のやり方でいい」と言ってる根拠が、令和4年にやった勤務実態調査なんですよね。これは2016年から平成29年、30年あたりの勤務実態と比べて、残業時間が減ってるから「このままのやり方でいい」と言ってるんです。でも共産党の田村議員とかは、「そもそも令和4年の勤務実態調査は怪しい」と言ってて、改ざんがあると。休憩時間を完全に差し引いていたり、春休みや夏休みを残業ゼロでカウントしていたりしてて、これどう思います?

田中
その通りだと思います。調査のやり方がおかしいと思う。僕の学校にも来たけど。

東和
それは勤務実態調査じゃない。30分ごとに1週間、何の仕事をしたか記録するやつ。それは別の調査。各自治体がやってるアンケートみたいなものと、国がやってる勤務実態調査とは全く違う。後者は抽出された学校で、30分単位で徹底的に仕事を記録するから、正確性が高いんですよ。

田中
でもそれを現場の教員が適当に書いてるんじゃ?という懸念もあるよね。

東和
自治体の調査は確かにいい加減な面もあるけど、勤務実態調査の方は第三者機関も関わってて、もう少し信頼性がある。ただ、30分ごとに記録取るのは現場にとってかなり負担なんですよ。だから、給特法制定以降も3回しかやってない。次回の予定は未定だって。現場の負担が大きいから計画していないってのは、ちょっとどうかと思う。それで『各自治体のアンケートで十分」って言うけど、それじゃ現状把握できない。内田良先生がYouTubeで言ってたんですけど、「各教育委員会が集めてるのはアンケート調査。勤務実態調査は性質が違うって。めちゃくちゃ細かく調査して、客観性が高い。だから定期的にやらないと変化が分からないし、エビデンスがなくなる。それを「見えなくする」ことが最大の危機』だって内田先生は言ってた。文科省の「毎年アンケートで済ませよう」って方針は、数字をごまかそうとしてるように見える。

田中
文科省は都合の悪いことはなるべくやりたくない。今も昔も変わらないですね。

東和
西村議員も「勤務実態調査をやらないのはやばい」と言ってるし、実際に他の議員も国会で訴えてるけど、結局やらない。内田先生も、今回の改正案に希望はないって言ってた。以前は検討の余地があったけど、今回は希望を持ちづらいって。

田中
1%ずつとかふざけた話ですよ。僕はむしろ、廃案が一番いいと思ってる。というか、新しい法律が通ると議論が止まっちゃう。今のままならまだ議論できる。

東和
自民党的には「もうやったから、あとは様子を見ましょう」ってなっちゃう。

田中
その通り。法律が通ったらあと10年、様子を見るだけになる。今回の改正案は、むしろ通さない方がいい。法律が通ることで、変な前提が固定されて次のステップが取りにくくなる。これは議論を邪魔する存在になる。

東和
教職調整額の引き上げについても、田村議員が「給料上がった分働けってことになる」と言ってて、それも懸念ですね。

田中
共産党らしいよね、

東和
でも僕思うんだけど、これではっきり「残業代」ってことになったよね。今までは、なんというか、「教職調整額」で、残業代って感覚じゃなかったじゃないですか。でも今回は、残業時間に合わせて──本当は合ってないんだけど──教職調整額ですよってなったわけでしょ?そうなると、「残業代払ってるんだから残業しろ」ってことになりそうだよね。

田中
なるよ。例えば20時間分だったら、「登校指導しろ」とか「部活しろ」とか言われるよ。

東和
だから結局、それってマイナスかもしれないよね。

田中
そうだよ。