尾木ママが10年前に指摘した教員が病む10の理由が現在でもまったく改善されていない件

尾木ママこと尾木直樹氏が2007年に出版した、「教師格差」。

尾木氏はこの本のなかで多くの休職者が出ていることに触れ、自ら行った教員へのアンケート調査から教員が病んでしまう理由を挙げています。

今回は、これらの理由が10年経過して、どうなったのか、変わったのか、変わっていないのかについて取り上げていきます。

1.勤務時間内で終わらない仕事量の多さ

尾木氏は、膨大な仕事量について書いていました。

勤務時間内ではまったくこなせない「仕事量の多さ」、どうしても増える「土日の持ち帰り仕事」は、多くの教師にとって大きな悩みの種となっています。
それも、生徒の指導にかかわる内容ならまだしも、子どもたちとは直接、関係がない報告文書の作成や事務処理に追われるケースが圧倒的に多いことは、あまりい知られていないのではないでしょうか。現実の職場においては、生徒の指導よりむしろ、報告文書の作成といったことが教師の束縛しており、しかもこれが教員評価につながっているからやっかいです。(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

これは当ブログでも繰り返し述べてきていることで、10年前から一切改善していません。それどころか、部活動の過熱等むしろ悪化しているといえるかもしれません。

2.子どもと遊べない

尾木氏は自らが行った教員へのアンケート調査の回答を引用し、教員が子どもと向き合えていないことを指摘していました。

「忙しすぎて、子どもたちと遊んだり、話したりすることができない。子ども第一に考えての学校運営がされていない。提出物に追われて、パソコンばかりやらなければ仕事が終わらない」(58歳・女性教師)

ここで書かれている提出物とは、教育委員会から求められる調査への報告や研修の報告書、行事の企画書等です。

これについても10年経った今でも全く変わっていません。

3.管理職が「評価の目」で見る

尾木氏は、評価制度導入以前の教師の仕事について次のように述べて、学校の世界に評価制度を導入したことに対し批判をしていました。

教師の世界では、若手とベテランのあいだに力量に差があっても、求められる仕事内容ではほとんど差がないのが特徴になっています。そうした中で、先輩に相談し、同僚と切磋琢磨しながら成長していくのがこれまでの姿といえるでしょう。つまり、大会社のように、管理職が命令を出して、中間管理職を経て末端に業務命令が行き渡るといった組織体系ではなく、お互いがイーブンな関係な中で、教えたり教わったりしながら日々の仕事が行われていくわけです。(出典:第二章 「逆風」にさらされる教師)

近年、学校現場に導入されてきた教員評価については、企業が取り入れて行ってきた評価システムをモデルにしているようです。しかしこれはこれまで学校が成立させてきた文化や伝統を省みず、企業の方法論をそのまま持ち込んでしまったものだといえるでしょう。(中略)
とにかく競争させておけば伸びていくものと考える楽観的な「競争原理主義」のような発想に固執していたならば、学校は正しく機能しません。そうした意味からも、学校と一般の企業とでは性質がまったく違います。(出典:第三章 教師の条件)

また、現場の声も次のように引用しています。

評価されるために仕事をしたくない。本当の教育を語り合い、目指すことができない。成果主義が導入され、それに乗っている同僚もイヤになる。助け合い、力を合わせるということが失われてきている。(50代・女性教師)

10年経ってどうなったかというと、学校は”評価する側””評価される側”に分断され、教員は自らの評価に悪影響を与える情報は隠すようになり、中には教育委員会や校長が推している施策を熱心に取り組むことで自らの評価を上げようとする教員も現れるようになりました。

つまり、評価制度を導入することで、見事に「管理職(文科省・教育委員会)が命令を出して、中間管理職(校長)を経て末端(教員)に業務命令が行き渡るといった組織体系」になったといえるでしょう。現場レベル経験者としてはそう思います。

4.評価制度が気になって、親と本音で話せない

尾木氏は、子どもの問題について保護者と満足に語ることができない現状(当時)があるとし、次の教員の声を引用していました。

「子どもとの関係がうまくいっていない時でも、その事を明らかにすれば、自らの成績に関わる評価制度が教師の率直な告発を封じ込めている」(60歳・男性教師)

現場の教員は、保護者からの評価をものすごく気にしています。気にしているというか怯えています。それが自身の評価にもつながるからです。

この指摘のように、自らの評価のために良くない情報を保護者に提供できないケースもあるようです。10年経過しても評価制度が変わっていないので、変化はありません。

5.教員評価が気になり、実情を切り出せない

管理職に対しても同様です。また、管理職自身も教育委員会に対して同じです。

そして、尾木氏は、

評価制度は“いじめの実態隠し”にもつながっている(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

といいます。

評価制度が”いじめの実態隠し”につながっているかどうかは確かめようがありませんが、10年経過した現在でも学校のいじめ隠ぺいは次から次へと出てくる状況は変わりません。

6.校長の一言で否決

尾木氏は、東京都教育委員会が職員会議での採決行為禁止の通知を出したことを提示し、次のように指摘していました。

下からの意見の吸い上げや、相互討論による認識の高まり合い、より良い方針づくりの力量も育たず、貧弱な教員集団しか形成できない心配があります。まるでワンマン経営の社長のようです。(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

10年経ってどうなったか。尾木氏の指摘の通りになったように私は思います。もちろん校長にもよるのでしょうが、校長の権限を大きくした結果多くの学校では下からの吸い上げ、相互討論、方針づくり、そんなものは一切なくなり、校長のワンマン経営になってしまっている学校が結構多いのではないでしょうか。

7.教員が集団として取り組めない

尾木氏は、現場教員の声を引用し、教員が集団として課題に取り組めていないと述べていました。

「学校が抱えている問題に教職員が集団として取り組むことが困難になってきている。職員会議の議題として採り上げられることもなく、職場の話題にもなかなかならない」(50代・男性教員)

10年経過しても状況は変わっていないと私は思います。

これは私の主観ですが、今の教員は、あまりの多忙さに皆自分の仕事をこなすのに必死で、他人の課題に協力するような余裕がない教員が多いと感じます。

8.教員のあいだにもいじめがある

尾木氏は、評価制度を挙げて、

抑圧され、競わされると、企業人や教員といえども、そこにはいじめも発生するものです。(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

と言っていましたが、これについて職場によるだろうし、特に根拠が示されているわけでもないので、スルーします。

9.子どもの実態に合わない教育課程

尾木氏は、現場を無視した教育課程として、

学習指導要領改正で2002年に施行された「総合的な学習な時間」や「教育内容の三割削減」によって、子どもの実態に即した学習をさせることが難しくなった(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

と述べていましたが、記述が不十分で「総合的な学習な時間」や「教育内容の三割削減」がどう子どもの実態と合わないのかがよく分かりませんでした。

しかし、子どもの実態に合わない行事の多さ、アクティブ・ラーニング推進等は現在にも通ずる話かもしれません。

10.現場を知らない人の教育論議になっている

10年前、当時は第1次安倍政権で、教育再生会議を始めていました。

尾木氏は、

教育現場を知らない人たち(政治家・文化人など)が教育改革議論を好き勝手にしていることに対する憤りの声が少なくないのも事実です。
とりわけ、昨今の教育再生会議の議論や「提言」には、怒りを超えて辟易としている状況です。(出典:序章 病める教師――教育の現場から)

と述べていました。

10年経った現在、再び安倍政権となり、「教育再生実行会議」と名前を変え、同じように教育現場を知らない著名人たちによって教育が決められています。

以下が教育再生実行会議のメンバーで、小中高校の現場経験者18人中4人だけで、赤字の14人は実際の現場を知らない人たちです。

  • 漆紫穂子 (品川女子学院理事長・中等部校長)
  • 大竹美喜 (アフラック創業者)
  • 尾﨑正直 (高知県知事)
  • 加戸守行 (前愛媛県知事)
  • 蒲島郁夫 (熊本県知事)
  • 鎌田薫 (早稲田大学総長)
  • 川合眞紀 (自然科学研究機構 分子科学研究所長)
  • 倉田哲郎 (箕面市長)
  • 河野達信 (防府市立華城小学校教頭、元全日本教職員連盟委員長)
  • 佐々木喜一 (成基コミュニティグループ代表)
  • 三幣貞夫 (南房総市教育長)
  • 鈴木高弘 (専修大学附属高等学校理事・前校長、NPO法人老楽塾理事長)
  • 武田美保 (スポーツ/教育コメンテーター)
  • 佃 和夫 (三菱重工業株式会社相談役)
  • 向井千秋 (東京理科大学特任副学長、日本学術会議副会長)
  • 八木秀次 (麗澤大学教授)
  • 山内昌之 (東京大学名誉教授、明治大学特任教授)
  • 山口香 (筑波大学准教授、東京都教育委員会委員、元女子柔道日本代表)

(出典:首相官邸「教育再生実行会議 有識者」)

★まとめ

この10年間、休職者の数はどうなったか。

2015年度にうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員が5009人に上ることが、文部科学省の調査で分かった。(中略)07年度以降5000人前後で高止まりが続いている。(出典:毎日新聞「精神疾患で休職教員5009人 15年度」2016年12月22日)

この10年間、ほとんど改善できなかったわけです。

尾木氏がこれらの問題点を指摘していたにもかかわらず、です。

自らが課題をまったく改善できていない文科省、教育委員会。児童・生徒の学力が、とか言う前に、自分たちの学習能力を疑った方が良いじゃないかというレベルです。

さて、10年後どうなっているでしょうか。

次期学習指導要領の内容を見ると暗澹たる気分になりますが。

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