“命令ではなくお願い“は『黙示の超過勤務命令』にあたるのか、文科省に聞いてみた

未だに朝の挨拶運動や登校指導など違法な時間外労働を求められることが多い学校現場。

民間企業であれば残業代が出されるべきなのだが、公立学校の教員には「残業代を支給しない代わりに時間外勤務命令をしてはならない」という法律(給特法)がある。

要するに、公立学校の教員に対しては使用者である学校長は時間外勤務命令をしてはならないということなのだが、冒頭の通り現実にはそうはなっていない。

どういうことなのか。

民間労働者(労働基準法)の常識から考えれば信じがたい理屈なのだが、表向きの体裁としては、校長は教員に対し、“命令ではなくお願い”をしているという理屈なのだ。

つまり、強制はしておらず、教員自らが自主的に働いている、という建前である。

実際、2019年12月に始まった埼玉県の小学校教諭が起こしている訴訟でも、勤務開始前の登校指導について埼玉県教育委員会は「協力依頼をしたまでであり命じてはいない」という旨の答弁をしている。(判決は2021年の予定)

「校長は登校指導を命じておらず、各教員に協力依頼をしたのである」

(出典:埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト

◆黙示の超過勤務命令

しかし、2019年3月18日に文科省YouTubeチャンネルで『~公立学校の校長先生のための~やさしい!勤務時間管理講座』という動画が公開された。

その動画では、

「明確な命令や言葉が文書で発せられていない場合でも、実質的に使用者の指揮命令下に置かれている状況にあれば、それは『黙示の超過勤務命令』があったとされる」

と解説されているのである。

黙示の超過勤務命令とは、使用者が直接労働者に命令を下していなくても使用者の指揮命令・管理下にあれば命令したのと同じように労働として扱われる、というものである。

文科省への4つの質問

そこで、私は”命令ではなくお願い”が黙示の超過勤務命令にあたるのか、文科省ホームページより下記のとおり4点の質問を送付してみた。

■件名
「命令ではなく、お願い」は黙示の超過勤務命令にあたるのでしょうか。■内容
文科省YouTubeチャンネル「公立学校の教師の勤務時間管理の基本」を拝見しました。このなかで、「明確な命令や言葉が文書で発せられていない場合でも、実質的に使用者の指揮命令下に置かれている状況にあれば、それは黙示の超過勤務命令があったとされる」 とあります。文科省がこのように校長等に注意喚起をしているにもかかわらず、未だに「命令ではなく、お願い」である(労働ではない)として、超勤4項目以外の業務を勤務時間外に教員に行わせる校長がいると聞きます。そこで伺いたいのですが、教員の働き方改革を進めている文科省として、校長の教員に対する勤務時間外の「命令ではなく、お願い」について、どのような見解をお持ちでしょうか。1、これは、『黙示の超過勤務命令』にあたるのでしょうか。一般論としての原則で構いませんので根拠とともに、回答を宜しくお願いいたします。

2、『黙示の超過勤務命令』にあたるとすれば、文科省として、「命令ではなく、お願い」も黙示の超過勤務命令にあたるという通知等をこれまでにしているのでしょうか。また、していないとしたら、今後行う予定があるのでしょうか。

3、『黙示の超過勤務命令』にあたらないとしたら、それは労働ではないという認識なのでしょうか。

4、そもそも『黙示の超過勤務命令』について認識のない校長がいるようですが、YouTube以外に各教育委員会や校長宛てにこの内容の通知等はしているのでしょうか。していないのだとしたら、今後行う予定があるのでしょうか。

上記4点の質問について、メールでご回答いただきたく存じます。

◆文科省からの回答

質問を送付した翌日に回答が来ました。回答は下記の通りです。

■回答

1.労働基準法第32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、これに該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものとされており、お尋ねの「お願い」が該当するかについて、一概にお答えすることは困難ですが、公立学校の教育職員に対して時間外勤務を命じる場合は、いわゆる超勤4項目に限られます。

2・4.こうした点については、関係する判例などを各教育委員会の担当者が集まる研修等で周知するなど、文部科学省としては、機会を捉えて周知を行っております。

3.超過勤務命令がなく、時間外に業務を行っている場合については、「自発的」勤務と整理されてきましたが、文部科学省としては、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」において、学校教育に必要な業務に従事する時間として、こうした勤務も含めて「在校等時間」として、勤務時間管理の対象とすることを明示しております。

初等中等教育局財務課

★まとめ

今回、個別のケースを聞いたわけではなく、一般論を聞いたに過ぎないので「一概にお答えするのは困難」という文科省からの回答は想定内だったが、「労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものとされており…」という記述を素直に解釈すれば、校長が主催する職員会議を経た挨拶運動や登校指導などは使用者の指揮命令下にあたるのは明らかではないだろうか。

(…というか、文科省は逆に使用者の指揮命令下にあたらない校長の”お願い”をどのようなものと想定しているのだろうか…??)

なお、文科省は「在校等時間」として勤務時間管理の対象となるとドヤ顔で回答してきたが、「在校等時間」は労働基準法上の労働として認めているわけではないので残業代は出ない。ただの言葉遊びに過ぎない。

私ははぐらかされしまったが、“命令ではなくお願い”をされている教員の皆さんは、個別のケースとして文科省の見解を聞かれてみてはどうでしょうか。

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