川崎市にプール流失損害賠償請求の件で法的根拠を尋ねたら、地方自治法ではなく『民法』だった

川崎市の小学校で教員の過失によりプールの水が流失し、市が教諭と校長に対し損害請求するというニュースが話題になっています。

ことし5月、川崎市の小学校で教諭がプールに水をためる際の操作を誤り、6日間にわたって水が出しっぱなしになっていたことが分かりました。無駄になった水道料金は190万円余りで、市は教諭らに半額の弁償を求めています。

NHK『小学校でプールの水が6日間流出 損害額190万円余』(2023年8月10日)

◆公務員には国家賠償法がある

公務員にはその職務を円滑に遂行できるよう、国家賠償法といって、その職務を行うにあたって故意又は過失によって他人に損害を加えたとしても、その個人が賠償する責任を免ずるという法律があります。

もちろん、この法律には例外があって、故意であるもの、重過失であるもの等は個人の賠償を免ずるものではなくなるわけですが、私は今回の件において市はなぜ国家賠償法の例外と判断したのかを知りたくて、川崎市に直接メールにて尋ねることにしました。

なお、法律の素人ながら、法的根拠は地方自治法243条の2の「占有動産を保管している職員等の故意重過失がある場合に公務員に生じた損害の賠償を負わせる」なのではないかと推測し、メールを作成してみました

◆私⇒川崎市のメール

稲田小学校のプールの水が流出し、市は教員に賠償を求めるとのNHKの報道を見ました。そこで、お聞きしたいことがあります。

教員に賠償を求めた法的根拠を教えてください。法的根拠は、地方自治法243条の2の「占有動産を保管している職員等の故意重過失がある場合に公務員に生じた損害の賠償を負わせる」という規定で間違いないでしょうか。

御回答宜しくお願いいたします。

◆川崎市⇒私への回答(全文)

サンキューコールかわさきにて、メールを拝見しました。

今回公表いたしました市立小学校のプールにおける水の流出事故についてですが、当該小学校のプールにつきましては、注水をする際、スイッチを「切」から「自動」に切り替えるだけで、一定の水位になれば自動で止水する機能を有しており、通常であれば、流出事故が発生する可能性はございません。

しかしながら、本件事故においては、水がまだ溜まっていないのにもかかわらず、注水開始時に、ろ過装置のスイッチも入れてしまったことから警報音が鳴り、これを止めようと、プール操作に係る電源ブレーカーを落としてしまいました。この誤操作により、全ての操作に係る機能を喪失させたほか、止水作業時にプールの吐水口から水が止まっているかを確認しないまま、その場を離れ、5日後に他の教職員が発見するまで放置したことなどにより、大量の水を流出させる事態を招き、結果として、支出する必要がない公金を支出することとなったものであり、大変申し訳ございません。

川崎市としては、これらの行為に対し、校長及び教諭に過失があると判断し、民法第709条の規定に基づき、損害額の5割相当額を請求いたしました。なお、賠償請求した残りの5割相当額についてですが、本件は校長や教諭だけの責任だけでなく、組織としての責任もあるという観点から公費での負担としたところです。

今後こうした流出事故が発生しないよう、再発防止に向けて様々な対策を講じ、市民の皆様の信頼の回復に努めるとともに、教職員の業務負担軽減にも寄与するよう、一部の学校で取り入れているプール運営業務の民間委託の拡充など、様々な検討を進めてまいりたいと考えております。

◆法的根拠は民法

意外な回答でした。法的根拠は民法だったのです。

なお、民法709条(不法行為による損害賠償請求)の条文は次のとおりです。

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

私の推測は、「地方自治法243条の2」によって国家賠償法の例外として請求したというものでしたが、そうではありませんでした。

私ははじめこの回答を見たときに、「公務員なのに民法!?」と思いましたが、過去にも(国家賠償法をすり抜けるための)民法による公務員への賠償請求は行われているようです。

◆個人的な見解

最後に、私の個人的な見解について述べます。

私は、このプール管理という業務が

  1. 教員の主たる業務であり、
  2. 勤務時間内にきちんと時間を与えられているのであれば、

福田市長が言う通り、損害賠償に値しても仕方ないのではないかと考えます。

しかし、実際はそうではありません。

  1. プールの管理は昔はプールの管理人が雇われていたにもかかわらず、予算の削減で彼らがいなくなり、教員の主たる業務でないにもかかわらず、負わされ、
  2. しかも、勤務時間内外に業務を行うための時間も確保されていません

だから、川崎市には多くの苦情や批判が寄せられているのでしょう。

今回の件が、悪しき前例とならぬよう、関係者には必要な抗議をしてほしいと、個人的には考えます。

コメント

  1. ちゃめ より:

    詳しい記事をありがとうございます。

    8月16日、大山奈々子神奈川県議が川崎市教育委員会学事課の並木課長に聞き取りをしました。それによると、稲田小学校にプール機器が納入されたのは、今から25年前の平成10年。いつの間にかマニュアルがなくなり、これまで機器の使い方は教員から教員へ口伝えだったとのこと。機械室の操作盤に水位調整について簡単なメモが貼ってあっただけでした。電源を切った後の復旧などは書いてありませんでした。

    この状態で、教員の重過失だと川崎市は認定したのです。

    大山県議は並木氏に「故意や重い過失があったわけではありませんよね」「電源を切って再開したら止水栓が効かなくなるなんて分かりませんよね、普通」と聞いたところ「はい」と返事をしました。

    川崎市教委の報道発表でも、福田市長の記者会見でも、そしてトウマコさんへの市からの回答にも、マニュアルがない状態、機器の操作は口伝えと簡単なメモのみだったことなど一つも発表されないまま、末端の教員に責任を押し付けていることに怒りしかありません。

  2. makomako108 より:

    ちゃめ様

    貴重な情報提供、ありがとうございます。
    県議会での大山議員の質疑、情報ソースはありますでしょうか。
    もしあったら、教えていただきたいです。
    (県ホームページの議事録にはまだ7月分までしかアップされていませんでした)

    • ちゃめ より:

      サボさんのTwitter(トップ)に、大山県議が聞き取った内容をまとめたペーパーの写真をポストしています。こちらに写真を送るやり方が分からずすみません。

      支払ってしまったのは非常に残念ですが、これ以上報道されても辛いだけなのも分かります。

      川崎教職員組合は、ご意見お寄せくださいだけで、まったく動きませんでした。組合員でない教員を助ける義理はないと、書記長が発言したそうです。