鳥飼教授が『危うし!小学校英語』で小学校からの英語教育に反対する2つの理由についてまとめた

一昔前の書籍ですが、当時は小学校高学年を対象に外国語活動が始まるという時期で、小学校に英語教育を導入されることに警鈴を鳴らしたのが本書です。

2020年の新学習指導要領より、小学3年生から外国語活動、5年生からは英語(教科化)が開始される予定の今、本書を取り上げて、改めて小学校からの英語教育について考えてみたいと思います。

1.「早ければ早いほど」の臨界期説は幻想

文科省の調査や各種アンケートの結果を見ると、小学校からの英語教育について、肯定的にとらえる保護者が多いようですが、鳥飼先生は、その考えのもとには言語習得は「早ければ早いほど」良いという誤った保護者の認識があるといいます。

そして、「言語を身につけるのは十歳まで。その後では遅すぎる」という認識は幻想であり、なんの根拠も裏付けがないといいます。

逆に、小学校で英語を学んだ中高生とそうでない中高生の英語力(発音・知識・運用力・音素識別能力・発音能力・発話能力)を比べたJASTEC(日本児童英語教育学会)と静岡大学・白畑知彦教授の調査から、その両者に大差がなかったことを示されているといいます。

また、トロント大学・ジムカミンズ教授と名古屋大学・中島和子教授によるトロント在住の日本人小学生を対象にした研究では、母語の読み書き能力をしっかりと身につけてからカナダに移住した子どもと、母語が確立する前の幼児期に移住した子どもを比較し、前者が比較的短い期間に現地の母語話者並みの読み書き能力に追いつくのに対して、後者は読み書き能力を身につけるのは難しく長い時間がかかることを明らかにされたことについても引用しています。

これらの調査結果や同時通訳のパイオニアや科学者などが、中学からの英語教育で英語を習得している事実から、

つまりは、「臨界期」説に脅かされて小学校でやらなくとも、中学からきちんと学ぶことによって高度な英語力をつける道は十分にあるのです。

と述べています。

(ちなみに、ライターの蜂谷智子氏も、ペラペラな親ほど早期英語教育に“冷淡”(出典:プレジデント・オンライン)と英語が話せる保護者ほど小学校からの英語教育に懐疑的であること指摘をしています。)

2.小学校学級担任の英語授業は危うい!

保護者のなかには、音楽のように英語専科が小学校英語を担当すると勘違いされている方もいるようですが、基本的に授業を担当するのは学級担任です。

しかし、その学級担任のなかで英語免許をもつ教員は5%にも満たないのです。

文科省によると、2015年度調査でそうした併有小学校教員は5%に満たない。(出典:毎日新聞「社説 新学習指導要領 がんじがらめは避けよ」2017年2月15日)

英語を専門的に学んでいない、小学校の学級担任の英語授業について、鳥飼先生は例えば、冠詞(単数形のa、複数形のs)を省いて授業することがあり、その危うさを次のように説明しています。

マーク・ピーターセン教授(明治大学)は、「母国語(日本語)の表現上で目立たない区別は、外国語(英語)でも目立つまい」と思いこむことの危うさを指摘しています。(中略)こういった「ささいなこと」にこそ、ことばの性格の違い、そしてそのことばを話す人が世界をどう切り取って認識しているかという文化の違いが表れるのです。

ちなみに、私も小学校教員時代、高学年の外国語活動を担当したとき、何の基礎知識もない児童にその違いを理解させるのは非常に困難なので冠詞を省略して授業をしてしまっていました・・・。これは私だけでなく、他の多くの小学校教員が経験していることだと思います。

鳥飼先生は、この他にも「ティーチャー」と呼ばせたり、英語劇で台詞を暗記させたりなど、専門的に英語教育を学んでいない小学校教員による英語授業の危うさについて述べています。

◆中学の英語教育を充実させるべき

では英語教育はどうあるべきなのか。

鳥飼先生は、小学校からの英語教育を実施するのではなく、中学の英語教育を充実させるべきと主張されています。

中学生には分析的に学ぶことができるだけの抽象的な思考能力が備わっています。しかも柔軟性も吸収力も、まだ十二分にあります。英語などの外国語を学ぶには、中学生が最適な時期です。その意味で中学校へは、時間、「ヒト」、「カネ」(少人数クラスを実現するための予算)の重点的投入が必須です。

そして、英語教員への研修やスキルアップの機会も充実させるべきとしています。

★まとめ

  1. 「早ければ早いほど」の臨界期説は幻想
  2. 小学校学級担任の英語授業は危うい!

これが鳥飼先生が『危うい!小学校英語』で挙げた主な反対理由2つでした。

私もこの本を読むまでは、語学教育には臨界期があり、「早ければ早いほど」良いと考えていたので、鳥飼先生の指摘は目から鱗でした。

ちなみに、私は上記の理由以外にも、

  • 小学生には国語教育の方が重要だから
  • これ以上の授業時数増加が物理的に無理で休み時間や朝の時間を削るのに反対だから(英語を増やす代わりに削減する内容がないため)

等の理由で小学校からの英語教育に反対をしています。

以上、元公立小学校教員トウワマコトによる、「鳥飼教授が『危うし!小学校英語』で小学校からの英語教育に反対する2つの理由についてまとめた」でした!

関連記事:次期学習指導要領改定案「小学校英語教科化+前倒し」を受けて、元小学校教員の私が文科省のパブリック・コメントへ送った反対意見の3つの理由