第1回埼玉県教員未払い賃金請求裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

埼玉県の小学校教諭が教員の無賃残業の違法性を訴え、訴訟を起こしました。

残業が常態化しているのに、残業代が支払われないのは違法だとして、県内の公立小学校の男性教員(59)が県を相手取り、約240万円の支払いを求めた訴訟の第1回口頭弁論が14日、さいたま地裁(石垣陽介裁判長)で開かれた。県側は支払い義務はないとして、請求棄却を求めて争う姿勢を示した。

(出典:産経新聞『埼玉教員残業代訴訟 「義務ない」、県は争う姿勢』2018年12月15日

その第一回意見陳述を傍聴してきましたので、原告先生と県の主張の論旨をまとめました。

◆原告・田中先生の主張

田中先生の意見陳述書より

・この裁判で公立学校の教員の無賃残業を無くしたい。(原告意見陳述書1頁)

・教員の自主性が尊重されなくなった。職員会議が校長の諮問機関になった頃から。(原告意見陳述書2頁)
※職員会議に合議性がなくなり残業は自主的ではないことを示すための文言

・平成20年に異動した学校では、登校指導のため、朝早く出勤しなければならなかった。もちろん、調整もない。学校長から仕事を指示されることが多くなり、時間外勤務が当たり前のようになった。(原告意見陳述書3頁)

・自分の学校の労働環境を変えるだけでは意味がない。日本全体を変えなくてはならない。これまで自分が経験してきた不合理なことを、次世代に引き継いではいけない。(原告意見陳述書3頁)

・現在の学校では、勤務開始1時間前に勤務開始。これを自主的と言われたら心外。選択の自由があるようでない。(原告意見陳述書4頁)

休憩時間の確保は、労働基準法により義務付けられているが、ほとんど守られていない。(原告意見陳述書4頁)

私たちが自分の仕事に取り掛かるのは、児童が帰った後の1時間(休憩時間30分を含む)しかない。(原告意見陳述書5頁)

学校長が業務を命じているのは勤務時間内だが、私たちが取り掛かるのは勤務時間外。(原告意見陳述書5頁)

原告側弁護士の意見陳述書より

・本訴訟は、給特法の本来の趣旨に反して教員が時間外労働を強いられていること、教員の時間外労働は決して自主的・自発的なものではないことを訴え、公立学校の教員が行った時間外労働に対しては賃金の支払いが認められるべきことを明らかにすることにより、学校教員が「無賃労働」を強いられている現状を改善することを目指すもの。(原告弁護士意見陳述書1頁)

「超勤4項目」に該当しない業務に関して時間外労働が命じられた場合についてまで、労基法37条の適用が除外されることを、給特法が予定しているとは考えられない。(原告弁護士意見陳述書2頁)

・原告は、平成29年9月から平成30年7月にかけて、少なくとも、月平均約60時間の無賃労働を強いられている。(原告弁護士意見陳述書3頁)
※本当は何年も前から時間外労働があったが、この期間だけなのは残業代訴訟は2年間という時効があるため

給特法の趣旨や労働時間に関する一般法解釈からすれば、「自由意志を極めて強く拘束するような形態で、時間外労働が常態化しているような場合」でなければ時間外労働手当請求権は発生しないという解釈は明らかに誤っている。(原告弁護士意見陳述書4頁)

・原告は、今後、原告をはじめとした教員の日常的・恒常的な時間外労働の実態を明らかにするとともに、そのような実態を踏まえつつ、給特法の制定趣旨や法解釈のあり方を論じていく。(原告弁護士意見陳述書4頁)

・給特法第5条では、教育職員について労基法37条の適用は除外しているが、同32条、32条、36条の適用は除外していないため、教育職員に関しても、これらの労働時間規制は適用される。(原告訴状5頁)

被告・埼玉県の主張

・校長、副校長及び教頭を除く教育職員に対しては、給特法及び「義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する条例(給特条例)」第3条に基づき、「教職調整額」が支給されている。(中略)教員に対して時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとする一方、教員の職務と勤務態様の特殊性を正規の勤務時間の内外を問わず、包括的に評価した結果として「教職調整額」を支給することとしたものである。このような立法趣旨に照らせば、仮に教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても、それは給特法が前提とするところであり、これに対しては前述の趣旨の基づき、「教職調整額」が支給されている。(被告答弁書2~3頁)

・教育職員に対しても、労働基準法第36条の労働時間規制が適用される点については争い…(中略)そもそも「超勤4項目」以外の業務について時間外勤務命令を行う事はできず、命令に基づく時間外勤務は発生し得ない。よって、労働基準法第36条は教育職員に対して実質的に適用の余地がない。(被告答弁書5頁)

・給特法、政令及び給特条例により、教育職員に対しては、原則として時間外勤務を命じることはできない。ただし、教員の職務及び勤務態様の特殊性を正規の勤務時間の内外を問わず包括的に評価した結果として「教職調整額」を支給してる趣旨からすれば、教育職員の勤務が正規の勤務時間外に及ぶことがあったとしても、そのような勤務の存在は、給特法の前提とするところであって、これを否定するものではない。(被告答弁書6頁)

・給特法第6条第2項では、政令を定める場合においては、教育職員の健康と福祉を害することとならないように勤務の実情について十分な配慮がなされなければならないと規定されており、一定の制限が掛けられている。また、教員は地方公務員法第46条に基づき、給与、勤務時間、その他の勤務条件に関し、人事委員会に対して適当な措置を執るべきことを要求する事もでき、法律上その是正を求める事も可能である。よって、無定量の労働義務が課せられているわけではない。(被告答弁書7頁)

・勤務時間を考慮せず、教育効果があるからという理由で無限に仕事を増やすような事はしていない。可能な限りワークライフバランスに配慮した勤務体系になるよう努めており、勤務時間内において、事務作業を全て終えることが不可能な状況とは言えない。(被告答弁書2~3頁)

・給食指導や清掃指導が不可欠な事は確かであるが、給食や清掃の作業は高学年になるにしたがって児童に任せられる部分が多くなり、時間中、常に児童に対する指導業務に従事する必要がなくなる。教員自身が給食を食べ終わった後、児童の様子を時々観察しながら、事務作業をすることも可能であり、実際に行っている教員もいる。また、清掃についても児童による清掃作業を見守りながら、教室内の掲示物の張替え作業等を行っている教員もおり、そのような並行作業を行う事について、校長から教員に対し、並行作業を止め児童の指導に集中するよう指導したことはない。(被告答弁書2~3頁)

・給食指導や清掃指導について、全くの指導を毎日行う必要があるかは学年及び学級の実態や各教員の指導法による。給食や清掃の作業については学年が進行するに従って、児童に任せる部分が多くなる事は前述のとおりであるが、年度当初における児童に対する指導が非常に重要であり、そこでの指導を適切に行うことにより、その後は必要に応じた指導で対応が可能となる。なお、原告が主張どおりの指導を毎日行っていたかは不明である。(被告答弁書13頁)

・朝自習やチャレンジタイムの資料作成、出席簿の整理、健康観察保険関係の押印、週案簿の作成、草取り、学級・学年会計、通知表の作成、自己評価申告シートの作成、校内研修指導案提出、非行防止教室・図書館教室・交通安全教室等の申し込み・実施計画作成、児童理解研修資料作成、チャイム教室のプラン作成・親への連絡、家庭訪問の計画書作成、児童調査票確認、緊急連絡網作成、安全点検、学校からの手紙配布、保護者メールの登録確認報告、学校行事の準備、学内ネットワークシステムへの記入、指導要録作成、日直、校内巡視・カギ閉めについては、法定されてる業務もしくは校長が命じている業務である。ただし、これらの業務について、本件校長から原告に対して時間外勤務命令を行ったことはない。(被告答弁書14~15頁)

・教室の整理整頓、清掃用具の確認、落とし物の整理、教室の掲示物管理、掲示物のペン入れ、教室の掲示物作成、授業の準備、朝自習・ドリル・プリント・テストの丸付け、忘れ物の確認、学年だよりの作成、学級懇談会実施・懇談会資料の作成、授業参観の準備、保護者への対応、ノート点検、授業で行った作業の添削は教員の本来的業務であり、校長から直接命じていない。(被告答弁書15頁)

「教職調整額」は「超勤4項目」に係る時間外勤務に対して支給しているものではない。「超勤4項目」に該当せず、又は該当しても「臨時又は緊急にやむを得ない必要」のある場合でない業務については、給特法、政令及び給特条例により、そもそも時間外勤務命令を行う事が出来ないため、時間外勤務命令に基づく時間外勤務は発生し得ない。また、給特法による労働基準法第37条の適用除外は除外対象となる業務が限定されていないため、「超勤4項目」以外の業務にも適用される。さらに、教員の勤務が正規の勤務時間外に及ぶことがあったとしても、そのような勤務の存在は、給特法の前提とするところであり、これに対しては「教職調整額」が支給されている。なお、「学校職員の給与に関する条例」第10条の4において、時間外勤務手当に関する規定が設けられている。ただし、教育職員は支給の対象となっていない。

★まとめ

この埼玉県の主張に対して、私自身思うところは多々ありますが、本記事では敢えて書きません。

本記事をお読みいただいた皆様が、下のコメント欄やSNS等で自身のお考えを発信されることを望みます。

皆さんで一緒に考えていきましょう。

『第2回埼玉県教員未払い賃金請求裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた』はこちら

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コメント

  1. ライオン先生 より:

    わかりやすくまとめていただきありがとうございます
    埼玉県の言い分が苦しく感じてしまうのは私が田中先生を応援しているからでしょうか

    これからも応援させていただきます