【川崎プール】なぜ半額請求? その理由は2015年東京都の住民訴訟判決

川崎市の小学校で教員の過失によりプールの水が流失し、市が教諭と校長に対し損害請求するというニュースが議論を呼んでいます。

ことし5月、川崎市の小学校で教諭がプールに水をためる際の操作を誤り、6日間にわたって水が出しっぱなしになっていたことが分かりました。無駄になった水道料金は190万円余りで、市は教諭らに半額の弁償を求めています。

NHK『小学校でプールの水が6日間流出 損害額190万円余』(2023年8月10日)英文

インターネットを中心に「市による損害請求はひどいのではないか」という声が広がり、3800超の署名が集まったり、保護者有志が寄付を募ったりしているようです。

川崎市立稲田小(多摩区)の教諭がプールに注水する際に誤って大量の水を流出させた問題で、市が教諭と校長に水道代の半額約95万円を請求したことに対し、取り下げを求めるインターネット署名3800筆超が13日、市へ提出された。提出に立ち会った川崎市教職員連絡会議役員で元市立中教諭の大前博さん(73)は「予防策は十分だったか検討し明らかにすべき」と話している。

毎日新聞『プール流出、教諭に水道代 免除求め署名3800筆』(2023年9月14日)

川崎市立稲田小学校(多摩区)でプールの水を流出させた男性教諭らに約95万円を賠償請求した市教育委員会の対応を巡り、抗議が寄せられている問題で、同小に子供を通わせている保護者らが、賠償を補塡ほてんするため寄付を募っている。保護者の一人は「負担を少しでも軽くできないかと考えた」と話している。

東京新聞『川崎市立小のプール水出しっぱなし 「先生助けたい」保護者有志が寄付募る』2023年9月10日

しかし、市による損害請求は、なぜ”半額”相当なのでしょうか。個人的に私はそう思っていたのですが、先日の市議会での教育次長の答弁により、判明しました。

◆川崎市議会での質疑

この件について、9月13日には、市議会で質疑が行われました。

議員から、半額を請求する根拠を問われた教育次長は、次のように答弁しています。

◆東京の住民訴訟判決

では、この東京都における住民訴訟判決とは、どういったものだったのでしょうか。

調べると、2015年に東京都立高校で8日間プールに給水を続け、約116万円の損害が生じたというケースのようです。

確かに今回の川崎市のケースと状況は類似しています。

このケースでは、東京都は関係した教職員7人に半額相当の賠償を求め、全員が納付したらしいのですが、その後、教職員への賠償はひどいのではないかと、住民によって東京都への全額負担を求める訴訟が起こされました。

そして、その裁判における判決では、教職員への損害賠償は「5割を限度に認めるのが相当」とされたのです。

都は注意義務違反にあたるとして、関係した教職員7人に半額相当の賠償を求め、全員が納付。この後、全額負担を求める住民訴訟が起こされ、東京地裁は訴えを棄却する一方、設備上の問題などを認め、職員の負担割合は「5割を限度に認めるのが相当」との判断を示した。

朝日新聞『公務員個人のミス、自治体からの賠償請求が増加』(2021年12月14日)

◆他の類似事例は?

2019年、神奈川県綾瀬市では、校長や教諭だけでなく、教育長ら教育委員会の関係者にも損害請求しています。額は半額相当です。

綾瀬市立綾西小学校(神奈川県)でプールの給水栓を閉め忘れ、約4千立方メートルの水道水が流出した問題で、同市は18日、人見和人教育長ら教育委員会事務局と学校関係の計7人に対し、上下水道料金の損失額の50%(約54万円)を損害賠償として請求し、厳重注意などの処分にしたと発表した。

朝日新聞『学校プールの栓閉め忘れ、水道代の半分を7人に賠償請求』(2019年1月20日)

また、2023年7月、香川県三豊市では職員に損害賠償しないとしました。

香川県三豊市の公立幼稚園で、職員のミスでプールの水が86時間出しっぱなしとなり、水道代約55万円分の水が流失したが、市は職員に損害賠償を求めないとした。市は分限懲戒審査委員会を開き審査。「故意ではない」「職員らによる小さなミスが重なったもので重大な過失ではない」との結論を委員会が出し、市教委に答申。これを受けて市教委は、訓告や口頭注意の処分を出したが、賠償請求はしない判断をした。

AERA『職員のミスなのになぜ弁償させない?プールの水55万円分流失の水道代 市が “異例”判断の理由』(2023年9月16日)

★まとめ

川崎市が教職員に半額相当の賠償を請求する根拠は、2015年の東京都立学校における住民訴訟への判決でした。

個人的には「なぜ半額なのだろう?」と思っていたので、その疑問は解決されました。

しかし、今回のケースにおいてこの判例を根拠に求めることが正しいのか、はまた別の問題です。

また、他のケースでは、教育長にまで賠償請求を出していたり、職員には請求を求めないケースもありました。

教員不足のなか、ギリギリの人数で稼働させられている学校現場、今後も同様のケースが起こってしまいそうです。その都度、今回のように損害賠償の是非が議論されるのでしょうか。

コメント

  1. ちゃめ より:

     川崎市立稲田小学校のプール溢水について、稲田小学校の校長が、担当の教員と分けたのではなく、校長一人で賠償金95万円を支払ったとの報告を聞きました。稲田小学校の保護者有志が募金活動をしていましたが、これも使ったのかは分かりません。

    川教組執行部の見解は「該当の教員が組合員であるか分からない。もし組合員でなければ扱わない」「組合員にアンケートを取りその意見を川崎市教委に反映させたい」「日教組の顧問弁護士に意見を求めたが『難しい問題』と言っていた」とのこと。

    神奈川県の高校教職員組合の組合員からは、以前から川教組は「組合もどき」「お上のいいなり」「御用組合」と馬鹿にされいました。川教組はもう組合の看板を下ろして、単なる親睦会にしたらどうか。