前回記事はこちら『第1回埼玉県教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた』
埼玉県の小学校教諭が教員の無賃残業の違法性を訴えた裁判の第2回公判が行われました。
前回に引き続き傍聴してきましたので、両者の主張の要旨についてまとめました。
※第1回を先に読まれることをオススメします
◆被告・埼玉県の主張
・埼玉県が原告に対して超過勤務手当等を支給しなかったことは妥当であり、何ら違法性がないものである。(被告準備書面1頁)
・教員の勤務様態については、直接児童・生徒の教育を行う場合でも、通常の教科授業のように学校内で行われるもののほか、修学旅行や遠足等の学校行事のように学校外で行われるものもあり、また家庭訪問のように教員個人の独特の勤務があり、さらに自己の研修においても必要に応じて学校外で行われるものがある。このように、勤務の場所からみても学校内のほか、学校を離れて行われる場合も少なくないが、このような場合は管理・監督者が教員の勤務の実態を直接把握することが困難である。(被告準備書面1頁)
・給特法及び給特条例は、教員の職務及び勤務の特殊性にかんがみ、その勤務については勤務時間の内外を問わず包括的に評価することとし、超過勤務手当や休日給の根拠となる規定の適用を明文で排斥し、超勤勤務手当及び休日給の制度を新たに基本給相当の正確を有する給与として給料月額の100分の4に当たる教職調整額を支給するものとしたのである。したがって、原告が主張するように教職調整額は超勤4項目に係る時間外勤務の対価としてのみ支給しているものではない。(被告準備書面4頁)
・原告が勤務時間を超えて勤務をし、あるいは休日に勤務した場合であっても、およそ法令上超過勤務手当を原告に対し支給する根拠規定がないのであるから、原告の超過勤務手当請求権が発生することはありえない。そして、たとえ原告が勤務時間を超えて勤務等をしたが給特条例7条2項所定の事由に該当しない場合も、超過勤務手当自体が発生する法的根拠がないことは上記の場合と同じである。(被告準備書面4頁)
◆原告先生の主張
原告準備書面より
・勤務時間内に終わらない仕事を命じることは、時間外勤務を命じているのと同じである。現在、私たち教員が携わっている業務は、7時間45分の勤務時間で処理可能な業務を「大幅に」上回るもの。(原告準備書面1頁)
・同一の業務であっても、それを「勤務時間内」にやっていた場合には、校長からの明示・黙示の業務命令に基づく勤務になるにもかかわらず、「勤務時間外」にやっていた場合には、それは校長が命じた勤務ではない、すなわち教員が自主的に行っているものと評価されることになる。例えば、原告のテストの採点業務について考える。児童が下校した後の16時から国語科のテストの採点を開始し、40人分のテストの採点から記録まで通常100分かかるとする。16時から16時15分までは勤務時間であり、16時15分から16時45分までは休憩時間となり、16時45分から17時の勤務時間終了までは再び勤務時間となる。そして、17時から17時40分までが時間外勤務となり、合計100分でテストの採点が終了する。以上は、原告が普段から行っている仕事日程である。ここで、被告の主張を前提とすれば、16時から15分間は勤務、16時15分から30分間は自主的勤務、16時45分から15分間は勤務、17時から40分間は自主的勤務ということになる。このように、同じテスト採点業務であるにもかかわらず、勤務時間内であれば校長が勤務を命じているので仕事として認められることになるにもかかわらず、17時以降になると、校長が命じていないという理由で、急に仕事として認められないということになるのである。(原告準備書面2頁)
・被告は、まず、そもそも教員に対してどのような業務を命じているのかを、具体的に明らかにするとともに、教員に命じた業務であるか否かが、業務内容ではなく、業務を行った時刻によって決まるという解釈を取るのであれば、それがどのような根拠により導かれるのか、明らかにすべきである。(原告準備書面4頁)
・被告は、「校長は教員に対して時間外勤務を命じていない」と主張する。しかし、そうであれば、校長は、勤務時間終了とともに勤務を終了するよう、教員に対して明確な意思表示を行うべきである。(中略)また、給特法や、これを受けて制定された給特条例7条1項が、教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務は命じないこと等を規定している趣旨からしても、校長には、教員の勤務時間を適正に管理すること、すなわち、教員の休憩時間を確保し、時間外勤務をさせないことが求められている。ところが、実際には、校長は、教員に対して勤務終了の意思表示は行っておらず、その一方で、勤務を終了する教員に対してその意思表示をさせている。これは、教員から退勤の意思表示がなされた時刻まで勤務を続けることを、校長が容認している、すなわち時間外勤務を命じているということに他ならない。(原告準備書面4頁)
・給特法は、労働基準法の存在を前提として作られた法律である。同法及びこれを受けて制定された給特条例では、教員については原則として時間外勤務は命じないものと規定した上で、特例として、「超勤4項目」につき時間外勤務を認める条件を定めている。他方で、給特法及び給特条例では、「超勤4項目」以外の業務に関して時間外勤務をさせる条件については、何ら規定されていない。したがって、「超勤4項目」以外の業務については、労働基準法32条に基づき、原則として時間外勤務は認められず、例外として時間外勤務をさせる場合には、労使間で話し合いを行い、労働基準法36条に基づく三六協定を締結することが必要となる。以上が、労働基準法と給特法の各条文から導かれる解釈となるはずである。ところが、給特法及び給特条例では、「(「超勤4項目」以外の業務について)時間外勤務は命じない」「時間外勤務手当は支給しない」と規定されていたため、「超勤4項目」以外の業務による時間外勤務が存在したとしても、その存在を認めるわけにはいかなかった。そのため、これらの勤務は、教員による自主的勤務として扱われてきた。(原告準備書面6〜7頁)
・給特法は、教員には時間外勤務はさせないものと規定している。しかし、それを遵守しなければならない立場にあるはずの被告は、答弁書において、次のように述べている。
『このような立法趣旨に照らせば、仮に教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても、それは給特法が前提とするところであり、これに対しては前述の趣旨に基づき、「教職調整額」が支給されている。よって、無賃労働ではない。』(答弁書3頁)
上記の記述によれば、被告は、教員の時間外勤務の存在を認識し、それを容認しているということになるのであろうか。(原告準備書面7〜8頁)
求釈明の申立てより(原告準備書面9〜11頁)
- 被告は、原告を含む小学校教員の業務について、具体的にどのようなものがあると捉えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、何をもって「校長が教員に対して業務を命じる行為」に当たると捉えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、教員が行った業務が、校長の業務命令に基づくものか否かは、業務の内容ではなく、業務に従事した時刻によって決まると解釈しているのか、仮にそうであれば、そのような解釈がどのような根拠から導かれるのか、明らかにされたい。
- 被告は、「校長は時間外勤務を命じていない」という事実をどのような根拠に基づき主張しているのか、この点についてどのような調査を実施したのか、現場の教員の声を聴取したのか、明らかにされたい。
- 被告は、校長が教員に対して、勤務終了時間に勤務終了するようにとの意思表示を行わなかったとしても、教員の時間外勤務を容認することにはならないと考えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、教員の休憩時間の確保について、現状をどのように把握しているのか、教員の休憩時間に学校全体が動く活動をすることを認めているのか、教員の休憩時間確保のためにどのような対策を講じているのか、明らかにされたい。
- 被告は、原告を含む小学校教員の時間外勤務の実態をどのような方法で把握しているのか、明らかにされたい。
- 被告は、原告を含む小学校教員の時間外勤務の存在をどの程度認識しているのか、明らかにされたい。
- 被告は、埼玉県内の公立小学校において新任教諭が朝早く職員室の掃除をさせられている現状を把握しているか、これは教員が命じられた業務には当たらない(すなわち自主的勤務である)と考えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、埼玉県内の公立小学校において、修学旅行や宿泊学習時に朝早くから該当学年でない教員まで、見送りに出勤させている現状を把握しているか、これは教員が命じられた業務には当たらない(すなわち自主的勤務である)と考えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、給特法制定当時と現代の教員の仕事量の違いはどのようなものと把握しているか、明らかにされたい。
- 被告は、給料月額の4%の教職調整額が、月60時間分の時間外勤務を評価する賃金として捉えることができると考えているのか、明らかにされたい。
- 被告は、「教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても、それは給特法が前提とするところである」と主張するが、給特法のどの条文からそのような解釈が導かれるか、明らかにされたい。
- 被告は、教員の時間外勤務をなくす方策を講じるべき義務があると考えているか、明らかにされたい。
- 被告は、教員の時間外勤務をなくす方策として、過去にどのような方策を講じてきたか、今後どのような方策を講じるべきと考えているか、明らかにされたい。
- 平成30年2月9日付「学校における働き方改革に関する緊急対策の策定並びに学校における業務改善及び勤務時間管理等に係る取組の徹底について(通知)」について、被告はこの通知をどのように捉えて、どのように市町村教育委員会に伝え、市町村教育委員会はどのように現場の学校に伝えているのか、被告はそれをどのように把握しているのか、被告は、この通知に基づいて、どのようなプランを持ち、いつ実行しようとしているのか、各市町村教育委員会や各学校の校長の取り組みについて、どのように見届けているのか、明らかにされたい。
◆まとめ
上記のとおり、原告先生と県との間において、給特法における解釈に隔たりがあります。
県は、給特法は勤務時間内外にかかわらず(超勤4項目以外についても)包括的に評価したものが教職調整額であり、その支給によって無賃労働は生じていないという主張。
(これまでの裁判では時間外勤務は一切なく、すべては教員の自主的勤務だとしてきましたが今回は違うようです)
一方、原告先生は、教職調整額はあくまで超勤4項目に対しての支給であり、超勤4項目以外については業務を一切命じるべきではないので、36協定を結ぶべきであり、36協定を結ばず時間外労働を命じている現状は労基法32条違反ではないかとの主張。
※労働基準法32条には、1週の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間が限度である旨の規定がされており、本条の労働時間を超えて労働させることはできないとされている。これを超えて労働させた場合には、労働基準法違反となり、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金に処せられる場合がある。つまり、給特法とは異なり罰則がある。
今後、この点が最大の争点になるかと思われます。
また、原告先生は県側に対し、16点の質問(希釈明)を投げかけています。次回は、原告先生の希釈明に対する、県の回答も注目です。
なお、前回同様、私も県の主張に対し思うところはありますが、本記事では敢えて書きませんでした。一人ひとりにSNS等で意見を表明していただき、みんなで一緒に考えていければと思っています。