公立学校は地域に密着しているため時間で割り切れない(給特法廃止は無理)という議論は詭弁

2022年に実施された勤務実態調査をもとづき、給特法の見直し検討がなされるという報道がされています。

文部科学省は公立学校の教員に残業代を認めていない「教員給与特別措置法」(給特法)の見直しに向け、検討を始める。長時間勤務が常態化している現場と制度が、かけ離れているとの指摘が上がっている。

(読売新聞『教員に残業代、文科省が検討…支給認めない法律の見直し議論へ』2022年12月15日)

それに伴い、給特法をめぐる議論が活発になってきています。

そのなかで一つ気になる議論がありましたので、本日はこのことについてまとめていきます。

伯井審議官「地域に密着しているため時間で割り切れるのか」

東洋経済オンラインの取材に答えた、伯井美徳文科審議官は記事の中で給特法の見直しについて次のように述べています。

文科省では22年8月より大々的な教員勤務実態調査を実施しており、その結果は23年春に速報値として公表する予定です。その結果をエビデンスとして、給特法の仕組みも含めた検討を行います。そのための論点の整理、課題の抽出を、現在進めています。

給特法の検討、議論の1つのポイントとなるのは4%の教職調整額です。公立学校の教員は地域に密着しているため、時間で割り切れるのかという議論もあります。4%という数字が実態とどれだけ乖離しているのかを把握し、色々な選択肢を検討していきます。

(東洋経済オンライン『文科審議官・伯井美徳「日本の教育の根本揺らぐ危機」、教員の処遇改善に全力』2023年1月2日)

「公立学校の教員は地域に密着しているため、時間で割り切れるのか」という議論がある(自分達では思っていないことをアピール?)と言うのです。

公立学校の教員は地域に密着しているため、時間で割り切れるのかというのは、つまり、「給特法廃止(労基法適用)は可能なのかというのを意味していると思われます。

私立・国立教員には給特法が適用されていないとの指摘

この発言を産んだ前提として、2022年10月には衆議院文教委員会において、立憲・古賀議員に「大学付属校や私立学校の教員には給特法が適用されていない。公立学校の教員にも可能なのではないか?」と指摘される、ということがありました。伯井審議官の発言はこの指摘を受けたものだと思われます。

その際の文科省・藤原初等中等局長の答弁は、上記の伯井美徳文科審議官と同様で、「公立学校は地域のなかに存在していて、地域の様々な課題を踏まえて運営されていると考えている。それらも含め検討する」というものでした。(つまり伯井美徳文科審議官の見解は個人的なものでなく文科省としての見解ととらえることができる)

地域に密着していれば残業代を払わなくて良いのか

「地域に密着しているため時間で割り切れない」ということですが、彼らは具体的にはどのようなケースを想定しているのでしょうか。

先の記事ではそこには言及していませんが、例えば災害等の臨時のケース、つまり給特法の超勤4項目の内容の業務を指しているのでしょうか。

あるいは、児童生徒の地域でのトラブルや地域イベントへの参加という超勤4項目外の内容の業務を指しているのでしょうか。

いずれにしても、私立学校や国立付属校でも同様にある業務です。私立学校や国立付属校も地域のなかに存在しているのですから。

さらに言えば、学校教員以外の仕事においても、地方公務員をはじめ、クリニック医師、コンビニ店員、飲食店定員、バス運転手、宅配便配達員…ほとんどすべての職業が”地域と密着している”仕事なわけです。しかし、言うまでもなく、彼らの仕事は時間的計測が行われ、残業があれば残業代が支払われます。

「地域のなかに存在している」ことは、時間的計測の免除理由にはならないということです。

★まとめ

私には「地域に密着しているから時間で割り切れない」というのは詭弁であるように感じます。

誤解をしてほしくはないのですが、私はとりわけ給特法廃止派というわけではありません。しかし、不当な詭弁により議論を歪めるのはフェアではないと思うのです。

そして、公立学校教員のみを差別的に取り扱うことは著しく不合理であり、憲法14条1項に違反すると思うため、本記事を書きました。