【地裁】第3回埼玉教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

埼玉県の小学校教諭が教員の無賃残業の違法性を訴えた訴訟。

本日、その第3回裁判が行われ、教員無賃残業訴訟・田中まさおのサイトで裁判資料が公開されましたので、原告先生と埼玉県、双方の主張の要旨をまとめました。

原告先生の新たな主張

原告先生の主張 超過勤務時間に占める仕事の内容と割合について(上記表)、「超勤4項目」の仕事は10%以下、「超勤4項目」以外の仕事が90%以上。被告も、「校長から原告に対し、勤務時間内に終わらない仕事を命じたことはない」と主張するのであれば、具体的な仕事の内容と時間を示し、勤務時間内に教員の業務を終えることが可能であることを明らかにすべきである。
県の主張 次回裁判答弁予定

原告先生の主張 平成30年4月、職員会議で反対意見を出したが、月に1回、勤務開始時刻よりも1時間程度早い時刻から登校指導の担当を割り当てられた。教員に対して正規の勤務時間外の業務を命じることは、労働基準法32条に明らかに違反している。
県の主張 次回裁判答弁予定

原告先生の主張 原告が本件訴訟を提起した平成30年9月以降、午前中の休憩時間に学校全体に関わる行事を入れないことや午後の休憩時間に職員会議等を入れないことを、当時の勤務先の校長が意識するようになった。

ところが、平成31年4月に異動した新たな勤務先では、休憩時間はほとんど確保されていない。当たり前のように休憩時間に仕事が入れられている。また、勤務開始時刻前より週2回の校庭のライン引き業務や登校指導が割り当てられている。

県の主張 次回裁判答弁予定

◆前回の原告先生の陳述に対する、県の回答

続いて、第2回の裁判で原告先生が提出していた意見陳述及び17点の求釈明に対する、埼玉県の答弁です。

原告先生の主張 勤務時間内に終わらない仕事を命じることは、時間外勤務を命じているのと同じである。現在、私たち教員が携わっている業務は、7時間45分の勤務時間で処理可能な業務を「大幅に」上回るものである。
県の主張 ・同じではない。本件校長から原告に対し、勤務時間内に終わらない仕事を命じたことはない。

原告先生の主張 同じテスト採点業務であるにもかかわらず、勤務時間内であれば校長が勤務を命じているので仕事として認められることになるにもかかわらず、17時以降になると、校長が命じていないという理由で、急に仕事として認められないということになるのである。
県の主張 ・校長から命じられた業務について、正規の勤務時間外に行った場合に、それが時間外勤務命令に基づかないとしても業務として認められないわけではなく、正規の勤務時間の内外を問わず、業務である。ただし、業務を正規の勤務時間外に行う事を命じておらず、いつ業務を行うかについては教員に一定の裁量がある。

求釈明①

原告先生の主張 小学校教員の業務について具体的にどのようなものがあると捉えているのか。
県の主張 ・授業や授業準備、学習指導、学級経営、学校行事、生徒指導、会議などの業務がある。

求釈明②

原告先生の主張 何をもって「校長が教員に対して業務を命じる行為」に当たると捉えているのか。
県の主張 ・校長による命令は文書や口頭により明示する場合もあれば、黙示の場合もある。
・職務命令が有効に成立するためには、①権限ある上司から発せられた、②職務に関するものであり、③法律違反の行為や事実上の不能を命ずるものでなく、内容が社会通念上合理的なものであることが必要。

求釈明③

原告先生の主張 教員が行った業務が、校長の業務命令に基づくものか否かは、業務の内容ではなく、業務に従事した時刻によって決まると解釈しているのか、仮にそうであれば、そのような解釈がどのような根拠から導かれるのか。
県の主張 ・教員が行った業務が、校長の職務命令に基づくものか否かは、業務に従事した時刻によって決まるものではない

求釈明④

原告先生の主張 「校長は時間外勤務を命じていない」という事実をどのような根拠に基づき主張しているのか、この点につきどのような調査を実施したのか、現場の教員の声を聴取したのか。
県の主張 ・時間外勤務命令を行っていない事を本件校長に確認している。現場の教員の声は聴取していない。

求釈明⑤

原告先生の主張 校長が教員に対して、勤務終了時間に勤務終了するようにとの意思表示を行わなかったとしても、教員の時間外勤務を容認することにはならないと考えているのか。
県の主張 ・校長が教員に対して、勤務終了の意思表示を行わなかったとしても、教員の時間外勤務を容認していることにはならない。
・校長が勤務終了の意思表示を行わなければならない義務もない。

求釈明⑥

原告先生の主張 教員の休憩時間の確保について、現状をどのように把握しているのか、教員の休憩時間に学校全体が動く活動をすることを認めているのか、教員の休憩時間確保のためにどのような対策を講じているのか。
県の主張 ・休憩時間に関する現状については、他機関が実施した調査等により把握している。
・休憩時間に学校全体が動く活動をすることを禁止してはいないが、休憩時間を確保するために、会議や校内研修を休憩時間に実施しない等の配慮をしている。

求釈明⑦

原告先生の主張 原告を含む小学校教員の時間外勤務の実態をどのような方法で把握しているのか。
県の主張 ・平成28年6月に埼玉県教育委員会が実施した勤務状況調査において、正規の勤務時間を除いた在校時間を把握している。
・他機関調査の結果でも把握している。

求釈明⑧

原告先生の主張 原告を含む小学校教員の時間外勤務の存在をどの程度認識しているのか。
県の主張 ・平成28年6月に埼玉県教育委員会が実施した勤務状況調査において、正規の勤務時間を除いた在校時間を把握している。

求釈明⑨

原告先生の主張 埼玉県内の公立小学校において新任教諭が朝早く職員室の掃除をさせられている現状を把握しているか、これは教員が命じられた業務には当たらない(すなわち自主的勤務である)と考えているのか。
県の主張 ・把握していない。新任教員が職員室掃除をしていることがあることを否定するものではない。教員が命じられた業務には当たらない。
・本件学校においては新任教員に対し、朝掃除をする必要はないと伝えているし、実際に掃除も行っていない。

求釈明⑩

原告先生の主張 埼玉県内の公立小学校において、修学旅行や宿泊学習時に朝早くから該当学年でない教員まで、見送りに出勤させている現状を把握しているか、これは教員が命じられた業務には当たらないと考えているのか。
県の主張 ・把握していない。仮にそのような事実があるとしても、業務には当たらない。
・本件学校において校長は指示をしていない。見送りに来る職員も一部であり、本人の意思である。

求釈明⑪

原告先生の主張 給特法制定当時と現代の教員の仕事量の違いはどのようなものと把握しているか。
県の主張 ・他機関の調査により、参考として把握している。

求釈明⑫

原告先生の主張 給料月額の4%の教職調整額が、月60時間分の時間外勤務を評価する賃金として捉えることができると考えているのか。
県の主張 ・教職調整額の支給割合の根拠は第1準備書面に記載したとおり。(昭和41年度に文部省が行った教員の勤務状況調査の結果を勘案)

求釈明⑬

原告先生の主張 「教員の勤務が正規の勤務時間外に及んだとしても、それは給特法が前提とするところである」と主張するが、給特法のどの条文からそのような解釈が導かれるか。
県の主張 ・第1条、第3条及び立法趣旨。

求釈明⑭

原告先生の主張 教員の時間外勤務をなくす方策を講じるべき義務があると考えているか。
県の主張 ・時間外勤務命令を行う際は、教育職員の健康及び福祉を害しないようにする必要がある。
・一義的には服務監督権者である市町村教育委員会が対応すべきと考えるが、埼玉県教育委員会としても教員の時間外勤務の縮減に向けた対策を講じる必要があると考える。

求釈明⑮

原告先生の主張 教員の時間外勤務をなくす方策として、過去にどのような方策を講じてきたか、今後どのような方策を講じるべきと考えているか。
県の主張 ・平成24年3月に埼玉県教育委員会が作成した「学校における負担軽減検討委員会報告書」に基づき、文書事務効率化や「ノー会議デー」設定を含む「ふれあいデー」実施等、学校における負担軽減に取り組んできた。
・今後は、中央教育審議会の答申や文部科学省のガイドライン等に則り、埼玉県教育委員会としての働き方改革に関する方針の策定に向け、検討を重ねているところである。

求釈明⑯

原告先生の主張 平成30年2月9日付「学校における働き方改革に関する緊急対策の策定並びに学校における業務改善及び勤務時間管理等に係る取組の徹底について(通知)」を、被告はどのように捉えて、どのように市町村教育委員会に伝え、市町村教育委員会はどのように現場の学校に伝えているのか、被告はそれをどのように把握しているのか、被告はこの通知に基づいて、どのようなプランを持ち、いつ実行しようとしているのか、各市町村教育委員会や各学校の校長の取り組みについて、どのように見届けているのか。
県の主張 ・本通知等を参考にしながら、働き方改革を推進していく必要があると考える。
・現在、埼玉県教育委員会としての働き方改革に関する方針の策定に向け、検討を重ねているところである。

求釈明⑰

原告先生の主張 埼玉県内の公立小学校における教職員の休職者・離職者の数、及びその要因についての調査・分析結果を明らかにされたい。
県の主張 ・平成30年度末の埼玉県公立小学校(さいたま市を除く)教諭の退職者数は、定年退職者が346人、勧奨退職者が73人、普通退職者(自己都合等)が112人。
・平成29年度の埼玉県公立小学校(さいたま市を除く)の教育職員の休職者数は117人、うち精神疾患による求職者数は74人。

★まとめ

<県の主張>

  • 校長の職務命令に基づく業務か否かは、従事した時刻によって決まるものではない。
  • 校長による勤務終了の意思表示の義務はない。
  • 教員の時間外勤務、休憩時間確保の現状、給特法制定当時と現代の教員の仕事量の違いについて、すべて「他機関」が実施した調査等により把握している。
  • 時間外勤務をなくす方策は、「ノー会議デー」「ふれあいデー」実施。

<原告先生の主張>

  • 超過勤務の内容は、「超勤4項目」以外の仕事が90%以上である。
  • 勤務開始時刻前から登校指導の担当を割り当てられていた。
  • 加えて4月から新しく赴任した学校では、休憩時間に仕事が入れられている。

◆関連記事

第1回埼玉県教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

第2回埼玉県教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

これまでの双方の主張を争点ごとに突き合わせて整理した―来週に迫った第3回埼玉県小学校教員超勤訴訟―

◆書籍のお知らせ