公立学校教員のための『措置要求』と『労働基準法違反の申告』を詳しく解説

コラム

勤務時間を過ぎても帰れない。給食指導や児童対応で休憩時間が取れない。それでも「学校の仕事だから仕方がない」と考えている教員は少なくないのではないでしょうか。

民間企業で労働基準法違反があれば、労働基準監督署に申告することができます。

では、公立学校の教員はどうなのでしょうか。

実は、公立学校教員にも、労働条件の改善を求めるための法的な制度があります。

それが、「勤務条件に関する措置要求」と「労働基準法違反の申告」です。

この2つは似ているようで、目的も提出先も異なります。

元小学校教員の立場から、制度の仕組みと学校現場での活用方法を詳しく解説します。

1.公立学校教員にも労働基準法は適用される

最初に確認しておきたいのは、公立学校教員も労働基準法の適用対象であるということです。

公立学校教員には、一般の地方公務員とは異なる特別な給与制度があります。

いわゆる「給特法」です。

給特法によって、公立学校教員には教職調整額が支給される一方、通常の時間外勤務手当や休日勤務手当は原則として支給されない仕組みになっています。

しかし、ここで誤解してはいけないことがあります。

給特法があるからといって、労働基準法のすべての規定が適用されなくなるわけではありません。

地方公務員法第58条では、労働基準法の一部について適用除外などが定められていますが、労働時間を定める第32条や休憩時間を定める第34条は、教員にも適用されます。

2025年4月16日の衆議院文部科学委員会でも、総務省は地方公務員に労働基準法第32条が適用されると答弁しています。

つまり、教員の残業代に特別な制度があることと、教員の労働時間や休憩時間が法律によって保護されることは、別の問題なのです。

参考:衆議院文部科学委員会会議録(2025年4月16日)

2.勤務条件に関する措置要求とは?

公立学校教員が勤務条件の改善を求める制度の一つが、「勤務条件に関する措置の要求」、通称「措置要求」です。

根拠となるのは、地方公務員法第46条です。

この条文では、職員が給与や勤務時間などの勤務条件について、人事委員会または公平委員会に適切な措置を要求できると定めています。

公務員は民間労働者と比べ、団体交渉権や争議権などの労働基本権が制約されています。措置要求は、その代償措置の一つとして設けられている制度です。

① どのようなことを要求できるのか

措置要求の対象は、本人の勤務条件に関する事項です。

例えば、次のような問題が考えられます。

  • 長時間勤務が常態化しており、勤務条件の改善が必要である。
  • 休憩時間が確保されず、児童生徒への指導を続けている。
  • 休日の部活動指導などによって十分な休日が確保されていない。
  • 業務の過重な負担によって健康を損なうおそれがある。
  • 年次有給休暇を取得しにくい勤務環境にある。

重要なのは、措置要求では、必ずしも労働基準法違反が成立している必要はないということです。

法律違反とまでは断定できなくても、本人の勤務条件として適切ではない場合、その改善を要求することができます。

ただし、学校の教員定数や人員配置など、自治体の管理運営事項そのものは、原則として措置要求の対象にはなりません。

「教員を全国で10万人増やせ」といった一般的な政策要求と、「自分の勤務時間や休憩時間を適切に確保してほしい」という勤務条件の要求は区別する必要があります。

② 人事委員会は何をするのか

措置要求が行われると、人事委員会はその内容を審査し、判定します。

地方公務員法第47条では、口頭審理その他の方法によって審査し、必要な勧告を行うことなどが定められています。

手続の基本的な流れは、次のとおりです。

  1. 教員が措置要求書を提出する。
  2. 人事委員会が要求の内容と受理要件を確認する。
  3. 関係資料や当事者の主張などを調べる。
  4. 人事委員会が判定を行う。
  5. 必要に応じて教育委員会などの権限ある機関に勧告する。

ただし、人事委員会の勧告には、それ自体で教育委員会に改善を強制する効力があるわけではありません。

要求が必ず認められるということでもありません。

それでも、教育委員会とは別の機関によって勤務条件の問題を正式に審査してもらえることには大きな意味があります。

③ どこに提出するのか

都道府県立学校の教員であれば、基本的に都道府県の人事委員会が窓口です。

また、県費負担の市町村立小中学校の教員についても、任命権者である都道府県教育委員会が属する自治体の人事委員会に提出するのが原則です。

政令指定都市立学校などでは取扱いが異なるため、所属先の制度を確認する必要があります。

参考:兵庫県人事委員会「勤務条件に関する措置の要求」

3.労働基準法違反の申告とは?

もう一つの方法が、労働基準監督機関への申告です。

根拠は労働基準法第104条です。

この条文では、事業場に労働基準法などに違反する事実がある場合、労働者は監督機関に申告できると定めています。

措置要求との違いは、法令違反の疑いを具体的に示し、調査や是正を求める制度だということです。

① 学校現場で考えられる労基法違反

最も分かりやすい例は、休憩時間の問題でしょう。

労働基準法第34条では、次の休憩時間が定められています。

実際の労働時間 必要な休憩時間
6時間以下 法律上の付与義務なし
6時間超~8時間以下 45分以上
8時間超 60分以上

さらに、休憩時間は原則として自由に利用できなければなりません。

例えば、小学校で午後0時15分から1時までが休憩時間として設定されているとします。

しかし、その時間に教員が給食指導や児童対応を命じられ、自由に休めなかったらどうでしょうか。

【小学校教員の勤務例】

勤務時間:8時15分~16時45分

休憩時間:12時15分~13時00分

実際の状況:

  • 12時15分~12時45分:給食指導
  • 12時45分~13時00分:児童対応

結果:勤務時間表では45分間の休憩があるものの、実際には休憩できていない。

勤務時間表に「休憩45分」と記載されていても、実際には休憩が与えられていない可能性があります。

書類上の休憩時間と、教員が実際に仕事から解放されている時間は、同じとは限りません。

このような場合、労働基準法第34条違反の疑いとして申告することが考えられます。

ただし、違反の有無は実際の指示や業務内容、休憩の取得状況などを調査して判断する必要があります。

② 国会でも教員の休憩時間が問題になっている

2025年12月5日の衆議院文部科学委員会では、教員の休憩時間について質疑が行われました。

文部科学大臣は、2022年度の教員勤務実態調査において、小学校教諭の10~11月の平均休憩時間が23分であったと答弁しています。

また、労働基準法第34条の休憩に関する規定は、公立学校にも適用されることを確認しています。

ただし、この調査結果だけで個別の学校の労働基準法違反が確定するわけではない、というのが政府の説明です。

それでも、平均23分という実態は、教員の休憩時間の確保について改めて考える必要性を示しています。

参考:衆議院文部科学委員会会議録(2025年12月5日)

③ 申告するとどのような調査が行われるのか

労働基準監督機関には、法令に基づく調査・監督の権限があります。

例えば、勤務時間や休憩時間について、学校に記録の提出を求めたり、担当者から事情を聴いたり、実地調査を行ったりすることが考えられます。

違反が確認されれば、必要な是正を求めることができます。

ただし、申告したからといって、必ず学校への立入調査が実施されるわけではありません。

また、地方公務員法第58条により、一般の地方公務員には労働基準監督官の司法警察権限に関する労働基準法第102条が原則として適用されません。

民間の労働基準監督署による刑事事件の送検と、同じ仕組みで考えることはできません。

なお、労働基準法第104条第2項は、申告を理由とする解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています。

参考:厚生労働省「労働基準監督官の仕事」

4.重要!市町村立学校の労基法違反は、誰が監督するのか?

ここが今回の記事で、特に知ってもらいたいところです。

民間企業の場合、労働基準監督署が労働基準監督機関になります。

しかし、公立学校教員の場合には特例があります。

地方公務員法第58条第5項では、該当する地方公務員の勤務条件について、人事委員会、または人事委員会を置かない自治体の長が、労働基準監督機関の職権を行使すると定めています。

そして、県費負担の市町村立小中学校教員については、原則として学校所在地の市町村長が労働基準監督機関になります。

人事委員会を設置している市では、人事委員会がその役割を担います。

整理すると次のようになります。

学校の種類 措置要求の提出先 労働基準監督機関
都道府県立学校 都道府県人事委員会 都道府県人事委員会
県費負担の市町村立小中学校 原則、都道府県人事委員会 原則、市町村長
人事委員会を置く市の県費負担教職員 原則、都道府県人事委員会 市の人事委員会
政令指定都市立学校など 任命権・所属に応じて確認 当該自治体の人事委員会等

つまり、措置要求の提出先と、労基法違反を監督する機関は、必ずしも同じではないのです。

これは意外に知られていないのではないでしょうか。

例えば、県費負担の市立小学校に勤務する教員が「休憩時間を与えられていない」と申告する場合、勤務先の市が労働基準監督機関としての役割を担うことになります。

実際に申告する際は、市役所の人事・労務担当部署などに、担当窓口を確認する必要があります。

参考:福井県人事委員会「職員の勤務条件に関する労働基準の監督について」

5.2025年、総務省が監督機関の役割について通知を出している

2025年9月26日、総務省は、都道府県や指定都市、人事委員会などに対して、公立学校教員の勤務条件の監督に関する通知を出しました。

通知では、県費負担教職員について、市町村長または市の人事委員会が労働基準監督機関になることを確認しています。

その上で、市町村に対して、監督を担当する部署や担当者を明確にすること、調査方法や調査結果を踏まえた対応を確認することなどを求めています。

さらに通知には、実際の監督機関の取組例として、次のようなものが示されています。

  • 学校などを対象とした書面調査
  • 実地調査やヒアリング
  • 勤務実態の把握
  • 教育委員会への改善指導
  • 学校管理職に対する労働法令の研修

また、2025年の給特法改正を踏まえ、教育委員会が策定する業務量管理・健康確保措置の実施計画についても、人事委員会等との連携が求められています。

教員の長時間労働を改善する責任は、教育委員会だけが負っているわけではありません。

労働基準監督機関としての役割を持つ市町村長や人事委員会にも、果たすべき役割があります。

参考:日本教職員組合「総務省が市町村長等に通知」

6.措置要求と労基法違反の申告は、どう使い分ける?

それでは、実際に学校で働く教員は、どちらの制度を使えばよいのでしょうか。

ケース① 毎日午後7時まで勤務している

正規の勤務時間が午後4時45分までなのに、授業準備や校務分掌のため、午後7時まで働くことが常態化しているケースです。

このような場合には、勤務条件の改善を求める措置要求が選択肢になります。

例えば、自分の業務負担や勤務時間の実態を具体的に示した上で、健康を確保できる勤務条件の整備などを要求することが考えられます。

ただし、特定の業務削減や配置転換まで当然に認められるわけではありません。個別の要求が制度の対象に当たるかどうか、確認が必要です。

ケース② 休憩時間に給食指導や児童対応を行っている

毎日45分の休憩時間が勤務時間表に設定されていても、実際には児童の指導を行っており、ほとんど休めない場合です。

この場合には、労働基準法第34条違反の疑いについて、労働基準監督機関への申告を検討できます。

単に「忙しい」という訴えではなく、いつ、どのような業務を行い、実際に何分間休憩できたのかを記録しておくことが重要です。

ケース③ 長時間勤務が続き、休憩も確保されていない

この場合、勤務条件の改善を求める措置要求と、法令違反の疑いについての申告を、それぞれ検討することができます。

制度の目的が異なるため、同じ勤務実態をめぐって両方の手続が問題になることもあります。

ただし、提出先や審査対象は異なります。

7.実際に申告・要求するとき、何を準備すればよいか

措置要求も労基法違反の申告も、勤務実態を示す資料が重要になります。

まずは次のような記録を整理しておきたいところです。

  1. 出退勤の記録:実際に何時から何時まで働いていたか。
  2. 休憩時間の記録:勤務時間表上の休憩と、実際に休めた時間。
  3. 業務内容:授業準備、給食指導、会議、児童対応など。
  4. 勤務を命じられた状況:管理職からの指示、学校として必須の業務だったか。
  5. 改善を求めた経過:管理職や教育委員会への相談日時、回答内容など。

その上で、措置要求であれば管轄の人事委員会などに要求書の様式や提出方法を確認します。

労基法違反の申告であれば、管轄の労働基準監督機関に、申告を受け付ける部署や手続を確認します。

相談だけでは正式な措置要求や申告として扱われない場合もあるため、どの手続として受け付けられたのかを確認することも大切です。

なお、在職中の教員が措置要求できるのに対し、すでに退職した人は原則として新たな措置要求をすることができません。退職後の相談では、別の手段を検討する必要があります。

8.給特法と教員の長時間労働を考えるうえで

教員の長時間労働をめぐっては、これまでさまざまな裁判が行われてきました。

私がこのブログで取り上げてきた埼玉教員超勤訴訟でも、教員が勤務時間外に行っていた仕事が、労働時間に該当するかどうかが争われました。

2021年10月のさいたま地裁判決では、一部の業務について労働時間であると認められた一方、原告による残業代などの請求は棄却されました。

この裁判が示しているのは、実際に労働していたことと、それに対して時間外勤務手当が支払われることは、必ずしも同じではないという問題です。

しかし、たとえ給特法によって通常の残業代が原則支給されないとしても、それで長時間労働を放置してよいことにはなりません。

また、学校の教員が休憩時間を確保できない状態にあるなら、その問題を「教員の仕事の特殊性」という説明だけで片付けることはできないはずです。

学校の勤務時間を適切に管理し、教員の健康を守る仕組みが実際に機能しているのか。

措置要求や労働基準監督機関への申告という制度は、そのことを問い直す手段にもなります。

関連記事:埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト

9.まとめ―教員も法律によって守られる労働者である

今回紹介した2つの制度を改めて整理すると、次のようになります。

制度 特徴
勤務条件に関する措置要求 教員自身の勤務条件について、人事委員会などに改善を求める制度。
労働基準法違反の申告 法律違反の疑いがある場合に、労働基準監督機関へ申告し、調査や是正を求める制度。

公立学校教員の場合、勤務先によって担当機関が異なります。

特に県費負担の市町村立学校教員では、措置要求の窓口と労働基準監督機関が異なる点に注意が必要です。

私自身、元小学校教員として、学校現場で多くの教員が仕事に追われ、休憩時間さえ十分に確保できない状況があることを問題だと考えています。

もちろん、制度を利用すれば必ず勤務条件が改善されるというわけではありません。

しかし、公立学校教員にも、自分の勤務条件について改善を要求し、法令違反の疑いについて監督機関に申告する権利があるということは、もっと知られてよいはずです。

学校教育を支える教員の健康や生活が守られなければ、子どもたちへの教育にも影響が及びます。

長時間労働や休憩時間の未確保を教員個人の我慢に任せるのではなく、教育委員会、人事委員会、そして労働基準監督機関が、それぞれの役割を果たしていくことが必要だと思います。

参考資料

※本記事は2026年11月時点の法令・公表資料に基づく一般的な制度解説です。実際の措置要求・申告に当たっては、任用形態、学校設置者、適用法令、自治体の規則などを確認してください。

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