第5回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

9月20日(金)、さいたま地裁で教員超勤裁判の第5回目が行われましたので、その取材に行ってきました。

本記事は、双方の主張全文がアップされている、第5回裁判資料(埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト)から、全文読む余裕がない方に向けて、重要な部分のみを抜粋してまとめました。

◆前回までの流れ

第1回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第2回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第3回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第4回埼玉県教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

詳しくは上記リンクをご参照いただければと思いますが、第3回までの裁判では原告側から多くの実例を挙げ、時間外勤務の実態が訴えられました。

第4回裁判では、あまりの多くのケースが出てきて、収集がつかなくなってたため、裁判長からの指示で原告側が議論の枠組み(原告側が考える、あるべき法解釈の全体像について)を提示しました。

今回、第5回はそれを受けて埼玉県がどう答弁してくるか、ここが注目ポイントでした。

◆埼玉県による主な答弁

まずは、前回までに出ていた原告先生の主張に対する今回出された県の答弁です。

勤務時間内に終えることのできる証明について

原告先生の主張 超過勤務時間に占める仕事の内容と割合について(上記表)、「超勤4項目」の仕事は10%以下、「超勤4項目」以外の仕事が90%以上。被告も、「校長から原告に対し、勤務時間内に終わらない仕事を命じたことはない」と主張するのであれば、具体的な仕事の内容と時間を示し、勤務時間内に教員の業務を終えることが可能であることを明らかにすべきである。【第3回準備書面】
今回の県の答弁 教員の業務は授業などの従事時間が規定されているものを除き、個々の業務にどの程度の時間を費やすかについて個人の裁量に委ねられている部分が大きく、業務の遂行方法についても校長から詳細に指定することはなく、各教員に任されている。その結果、時間外勤務命令に基づかない勤務にどの程度従事するかについては、教員間でばらつきがあり、1日当たりの正規の勤務時間を除く在校時間が1時間未満とする者から6時間以上の者までいるのである。つまり、時間外勤務命令に基づかない時間外勤務は校長による強制ではなく、教員各自の判断に基づいて勤務しているということである。

勤務開始前のライン引きについて

原告先生の主張 原告が本件訴訟を提起した平成30年9月以降、午前中の休憩時間に学校全体に関わる行事を入れないことや午後の休憩時間に職員会議等を入れないことを、当時の勤務先の校長が意識するようになった。

ところが、平成31年4月に異動した新たな勤務先では、休憩時間はほとんど確保されていない。当たり前のように休憩時間に仕事が入れられている。また、勤務開始時刻前より週2回の校庭のライン引き業務や登校指導が割り当てられている。【第3回準備書面】

今回の県の答弁 校庭のライン引きが週2回割り当てられていること、登校指導が存在することは認め、その余は否認する。休憩時間は確保している。なお、万一、休憩時間に仕事が入る場合には、勤務時間の割振り変更を行い、休憩するよう教員に伝えている。また、校庭のライン引きは前日の放課後に行う事も可能であり、勤務時間開始時刻よりも前の時間帯に行わなければならないわけではない。

労基法36条の適用について(法律論)

原告先生 給特法第5条では、労基法36条の適用は除外していないため、教育職員に関しても、これらの労働時間規制は適用される。【第1回準備書面】
県の答弁 「超勤4項目」以外の業務について時間外勤務命令を行う事はできず、命令に基づく時間外勤務は発生し得ない。よって、労基法第36条は教育職員に対して実質的に適用の余地がない。【第1回答弁書】
原告先生 被告の主張は、「超勤4項目」に該当しない日常業務についての時間外勤務が存在しないことを想定した見解に過ぎないところ、法定労働時間を超えて教員を「労働させ」ている実態(これが時間外勤務命令の有無にかかわらないことは先に述べた通り)は、現に存在する。【第4回準備書面】
今回の県の答弁 労働基準法36条の教員への適用については、従前の主張のとおりであり、原告の主張は独自の解釈である。(答弁書等を参照)

時間外勤務について①(法律論)

県の答弁 『超勤4項目』以外の業務について時間外勤務命令を行うことはできないため、そもそも時間外勤務命令に基づく時間外勤務は発生し得ない。【第1回答弁書】
原告先生 本件でまず問題とすべきは、校長が「時間外勤務命令」を行ったか否かではなく、校長が原告を「労働させ」たか否か(原告の勤務が労基法上の労働時間に該当するか否か)である。【第4回準備書面】
今回の県の答弁 争う。 教員には給特法が適用されており、時間外勤務の考え方については従前の主張のとおり。(被告準備書面(1)等を参照)

時間外勤務について②(法律論)

県の答弁 ・教員が正規の勤務時間外に勤務していることを認識していることをもって、校長が教員に時間外勤務を命じていることにはならない。

・校長による勤務終了の意思表示が無かったとしても、時間外勤務を容認していることにはならない。【第3回答弁書】

原告先生 校長が、教員が勤務時間外に行う「業務」に明確に関与し、勤務時間外に「業務」に従事していることを認識しつつ、それを校長が制止することなく黙認しているのであれば、その教員が従事した時間外労働は、労基法上の「労働時間」に該当することが明らかである。【第4回準備書面】
今回の県の答弁 争う。 教員には給特法が適用されており、時間外勤務の考え方については従前の主張のとおり。(被告準備書面(1)等を参照)

超勤4項目外業務について(法律論)

県の答弁 教育職員に対しては原則として時間外勤務命令を行う事はできないため、『超勤4項目』以外の日常的な業務について、校長からの時間外勤務命令により恒常的な時間外労働を強いられることはない。【第3回答弁書】
原告先生 校長による「時間外勤務命令」がない場合でも、校長が時間外労働は当然あるものと理解し、黙認しているのが実情であり、そのような場合、校長が教員を労働させた(労基法上の労働時間に当たる)と評価されるのであって、原告が問題としているのはこの点である。【第4回準備書面】
今回の県の答弁 校長による時間外勤務命令に基づかない時間外勤務の考え方については、従前の主張のとおり。(被告準備書面(1)等を参照)

◆原告先生の主な反論

次に、県の答弁に対し、原告先生が再度今回行った反論です。

休み時間に事務作業が可能かについて

県の答弁 休み時間中に、児童の連絡帳を読んだり返事を書くなどの業務に従事している教員がいることは認めるが、時間を有効に活用しながら事務作業を行っている教員や自発的に児童と遊んでいる教員も多くいるなど、休み時間の使い方は教員によって様々である。【第1回答弁書】
今回の原告先生の反論 ①次の授業の準備(教材等の準備のほか、英語教室・図工室・理科室等の特別教室への移動、体育の準備・後片付けも含む)②連絡帳(家庭からの連絡)の確認③無断欠席者への連絡④出席状況を職員室の黒板に記入(所要時間約5分)
⑤児童への対応(児童からの質問・忘れ物・トラブル対応、その他)
⑥音読カードの確認(所要時間約5分)⑦ベネッセ漢字ドリルの確認(所要時間約10分)⑧ベネッセ算数ドリルの確認(所要時間約10分)⑨提出物の確認(書類、アンケート、集金申し込み、その他)
(中略)休み時間を利用して原告がやらなければならない業務は多岐にわたっていた。教員は、その日にやらなければならないことで精一杯であり、トイレに行く暇もなかった。そのため、教員に課された事務作業の多くは、児童が下校した後の時間帯に回さざるを得ないのが実態であった。この点に関し、被告は、「休み時間の使い方は教員によって様々である」と主張するが(答弁書11頁)、否認する。教員は、休み時間まで校長に管理されており、校長に権限で物事が決められるため、教員の立場ではどうにもならないのが実態であった。

給食・清掃中に事務作業が可能かについて

県の答弁 給食指導や清掃指導が不可欠な事は確かであるが、給食や清掃の作業は高学年になるにしたがって児童に任せられる部分が多くなり、時間中、常に児童に対する指導業務に従事する必要がなくなる。教員自身が給食を食べ終わった後、児童の様子を時々観察しながら、事務作業をすることも可能であり、実際に行っている教員もいる。また、清掃についても児童による清掃作業を見守りながら、教室内の掲示物の張替え作業等を行っている教員もおり、そのような並行作業を行う事について、校長から教員に対し、並行作業を止め児童の指導に集中するよう指導したことはない。【第1回答弁書】
今回の原告先生の反論 ・被告は、「給食や清掃の作業は高学年になるに従って児童に任せられる部分が多くなり、時間中、常に児童に対する指導業務に従事する必要がなくなる」、「教員自身が給食を食べ終わった後、児童の様子を時々観察しながら、事務作業をすることも可能」と主張するが(答弁書10頁)、否認する。特に、平成30年3月まで勤務していた校長は、学校経営の方針として無言行動を掲げており、「給食指導」を徹底することを教員に求めていたため、給食時間中に事務作業をすることは不可能であった。

・「清掃指導」のやり方は、校長が主宰する職員会議で提案され、校長の権限により決定されていた(甲42)。 具体的には、清掃時間中は、児童に無言で掃除をさせること、教員も児童と一緒に掃除を行うことが、校長から命じられていた。(中略)清掃指導は、校長により、学校経営の重点項目に入れられており、清掃指導を徹底しているか否かは、教員の評価にも関わってくるものであった。 このような状況で、原告が清掃時間中に事務作業を行うことは、不可能である。清掃時間中は、教員は清掃指導に集中するのが当然とされていたのである。この点に関し、被告は、「児童による清掃作業を見守りながら、教室内の掲示物の張り替え作業等を行っている教員もおり、そのような平行作業を行う事について、校長から教員に対し、並行作業を止め児童の指導に集中するよう指導した事はない」と主張するが(答弁書10頁)、否認する。特に、校長は、自らほうきとちり取りを持って教室を見回ることもあり、このような状況で、教員が事務作業を行うことは不可能であった。

勤務開始前の登校指導割り当てについて

原告先生の主張 平成30年4月、職員会議で反対意見を出したが、月に1回、勤務開始時刻よりも1時間程度早い時刻から登校指導の担当を割り当てられた。教員に対して正規の勤務時間外の業務を命じることは、労働基準法32条に明らかに違反している。【第3回準備書面】
今回の県の答弁 ただし、割り当ては教員で構成する生徒指導部が計画し、校長が各教員に協力依頼を行ったものであり、校長が割り当てたものではない。校長は登校指導を命じておらず、各教員に協力依頼をしたのである。
今回の原告先生の反論 登校指導は、校長が主宰する職員会議によって実施が決定され、各学年の担任教員に担当日と担当場所が割り振られていたものである(甲31)。したがって、校長の「協力依頼」に応じて教員が自主的に協力していたものではなく、校長の明確な関与の下、教員がその職務を全うするために行われていたものであり、登校指導に従事する時間は、労基法上の労働時間に当たることが明らかである。(中略)登校指導は、臨時・緊急に発生するような仕事ではなく、事前に日時・場所が指定され、計画的に割り当てられている仕事であるから、 給特法、政令及び給特条例により校長が時間外勤務を命じることができる「臨時又は緊急にやむを得ない必要」のある場合の業務には当たらない。したがって、本来、校長は、勤務時間外に登校指導を行うことを教員に命じてはならないはずである(労基法32条、給特法6条1項)。

★まとめ

注目していた埼玉県の答弁ですが、法律論については「従前の主張のとおり」ばかりで残念な結果となりました。

私がその他で気になった点は3つ。

1点目は、埼玉県は勤務時間内に終わる業務量ということを主張している前提において、

「時間外勤務は校長による強制ではなく、教員各自の判断に基づいて勤務しているということである」

と述べていることです。

「私たち教員が携わっている業務は、7時間45分の勤務時間で処理可能な業務を『大幅に』上回るものである」としている原告先生側からすれば、時間内に終わらない業務量の仕事を振っておきながら、”時間外も含めていつやるかは教員の自由”と言われてもそれは受け入れられないでしょう。

2点目は、勤務時間前の登校指導について割り当てまでされているのに、

「校長は登校指導を命じておらず、各教員に協力依頼をしたのである」

と述べてきたことです。

個人的には、対等な立場でない使用者からの”協力依頼”など、命令と同義ではないのかと思うのですが・・・。

3点目は、給食と掃除の時間に、

「児童の様子を時々観察しながら、事務作業をすることも可能

と主張していた県に対し、原告先生が具体例を挙げながら、校長から給食指導・清掃指導が求められている実態を示し、不可能であると反論したことです。

これは個人的な思いになりますが、小学校勤務経験のある私は、最初にこの県の答弁を見たときに本当に腹が煮えくり返る思いがしたので、原告先生にしっかりと反論していただいて良かったと思いました。

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