さいたま地裁で埼玉教員超勤裁判の第9回目が行われました。この裁判、今後の日本の公立学校教員の超勤問題を左右する裁判だと思い、継続的に注目しています。
今回、10回目の裁判では、原告先生の意見陳述だけでなく、埼玉大学・高橋哲先生から『意見書』が出されました。
先日、第9回裁判資料(埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト)で、書面が公開されましたので、今回も全文読む余裕がない方に向けて重要と思われる部分を抜粋して整理しました。
◆原告先生の主な主張
県教委の主張 | 原告先生側の反論 |
給特法、政令及び給特条例は、教育職員に対しては原則として時間外勤務命令を行わないと規定されているのであり、時間外勤務命令に基づかずに正規の勤務時間外に勤務する事を禁止するものではない。 | 被告の主張が意味するのは、「超勤4項目」以外の業務についての時間外勤務をも給特法は許容しているという法解釈である。
しかしながら、給特法の法構造は、公立学校教員にも労基法32条が適用されることを前提に、労基法33条の読み替えによって、「超勤4項目」に該当する臨時やむを得ない業務に限り、時間外勤務を可能とするものであり、給特法によって許容される教員の時間外勤務は、極めて限定されているとみるべき。 |
職員会議は校長の職務の円滑な執行を補助する機関であり、意思決定権限を有していない。 | 他方で、被告は、「校務運営の意思決定は職員会議等において、校長が所属教員からの意見を聴き、最終的に校長が自らの権限と責任において行うものである」とし、また、教員に割り振られた業務についても「学校運営について必要な事項は校長が自らの責任において決定するもの」などと主張している。このように、被告は、「校長が教員への業務の割り振りを実質的に決定していた」という原告の主張を否定せず、むしろ、教員への業務の割り振りは、職員会議を通すまでもなく、校長の権限と責任で決定された業務であることを認めているのである。 |
(教室内の整理整頓、掲示物の作成、ドリルの丸付け、週案簿の作成、花壇の管理、ノートの使い方の指導などの業務について)
教員としての本来的業務。 |
「教員の本来的業務である」から、校長に命じられて行うようなものではないということのようである。もっとも、被告の主張は、原告が勤務時間外に行っていた業務は、学校運営に関係のない業務を原告が勝手に(自主的、自発的に)行っていたのではなく、むしろ学校運営において不可欠かつ本来的に備わっている(逆に言えば自己判断で行わないことは許されない)、学校における「職務」そのものであったということを意味している。 |
高橋哲先生『鑑定意見書』
本意見書は、超勤 4 項目以外の業務の「労基法上の労働時間」該当性について、述べられたものです。このなかで高橋先生は給特法は超勤4項目外の時間外労働が許容されているわけではないこと、原告先生に労働時間該当性があることを意見しています。
・本件訴訟において、この「労基法上の労働時間」を めぐる法律判断こそが、本質的な争点であると思われるため、この点に特化して本件訴 訟への鑑定意見書を提出するものである。
・本件原告は、(1)校長の関与のもとで、(2)学校の本来的業務に従事し、(3)当該時間外労働が長時間かつ恒常的に発生していることから、労基法 32 条違反に該当する時間外勤務を行っていたことが認められる。
・ 給特法は、法形式上、労基法 33 条 3 項を公立学校教員に適用することで「超勤 4項目」について三六協定なしに時間外勤務を命じることを認め、それ以外の時間外勤務命令を禁止するという体裁をとっている。このため、給特法上の特例は、あくまで公立学校教員の時間外勤務の扱いをめぐる特例ではあるが、適用除外されるのは、労基法 37 条のみであり、同法 32 条にもとづく「労基法上の労働時間」概念自体に変更を加える趣旨ではないことがまずもって確認されなければならない
・給特法の法的特徴において、特に注目されるべきなのは、給特法 5 条によ り労基法の本則においては対象外とされている教育関係職員を労基法 33 条 3 項の対象 として「読み替え」るという変則的立法措置がなされている点である。それゆえ、労基 法 33 条 3 項の「本則」が適用対象外としている業種を「読み替え」によって適用する という真逆の措置がとられていることからも、給特法が許容する時間外勤務は、極めて限定的なものであり、厳密に解釈される必要がある。
・ここでの争点は、給特法が果たして「超勤 4 項目以外」の業務に関する時間外勤務も許容し、教職調整額の 対象としているのかという問題である。被告の主張は、「超勤 4 項目」以外の時間外勤務をも給特法が許容し、教職調整額は、 これらの「超勤 4 項目」以外の業務も含んだ対価であると主張するものである。しかしながら、そのような見解は、そもそも、給特法 6 条が「教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする」と明示していることを死文化するものであり、上にみてきた「内容による歯止 め」を強調する給特法の立法趣旨にも反するものである。また、「超勤 4 項目」を政令 で定め限定すること自体を無意味化するものであり、限定項目の決定にあたり関係労働 者の意向を反映せよ、とする労働基準審議会の建議にも反する。
・「労基法上の労働時間」とは明示、黙示の「指揮命令」の有無にとどまらず、「使用者の関与」と「職務性」の程度を判断して、 客観的に「労働させ」たという事実によって把握されることとなる。
・本件訴訟の原告、被告の双方の主張をもとに、「労基法上の労働時間」を 構成する「関与要件」と「職務性要件」の充足程度をみてみたい。
・まず「関与要件」に ついて、重要なことは、2000 年の学校教育法施行規則によって職員会議の法的性質が 変化したかどうか、あるいは、職員会議が意思決定機関であるか否かではなく、教員が 行う業務に対して、校長が実質的な「関与」をしていたのか否かという問題である。原告、被告双方の主張する事実からみて、原告が行う業務は実質的に「使用者から義務づけられ、又はこれを余儀なくされた」業務であるといえる。少なくとも、当 該業務における校長の「関与要件」は相当程度に充足されており、被告においてもこれ を否認する論証は一切行われていない。
・他方、原告が担う業務の「職務性要件」については、被告はこれらの業務の大半が、 教員としての「本来的業務」であると、その職務性を全面的に認めている。
★まとめ
今回提出された高橋先生の『意見書』は、給特法の制定経緯や法律論から県教委が主張してきた「包括解釈論」を否定し、さらに労働かどうかは「使用者の関与」と「職務性」で判断されるというものでした。
次回は、11月6日です。