【地裁】第7回埼玉教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

2月21日(金)、さいたま地裁で教員超勤裁判の第7回目が行われました。この裁判、今後の日本の公立学校教員の超勤問題を左右するレベルの裁判だと思い、継続的に注目しています。

先日、第7回裁判資料(埼玉教員超勤訴訟・田中まさおのサイト)で双方の書面が公開されましたので、今回も全文読む余裕がない方に向けて重要と思われる部分のみを抜粋して整理しました

◆前回までの記録

第1回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第2回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第3回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第4回埼玉県教員超勤訴訟の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第5回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた
第6回埼玉県教員超勤裁判の原告先生と県の主張の要旨をまとめた

◆今回の原告先生の反論

職員会議(勤務開始前の登校指導など)について

原告先生は職員会議を通じて決定された業務は校長に命令による仕事ではないかと主張していますが、前回までに埼玉県教委は「生徒指導部が計画したものであり、校長が割り当てたものではない」と答弁していました。そこで今回改めて原告先生は、下記のとおり自身の主張を補足する反論を行っています。

原告先生 原告は、平成30年4月に当時の勤務先に着任してきた校長に対して、職員会議において、登校指導に対する反対意見を出し(中略)た。登校指導の担当を割り当てられた教員は、出校後、登校指導の準備をして、登校指導の場所まで歩いていくため、正規の勤務開始時刻である8時30分よりも1時間程度早い、7時30分には学校に到着しなければ間に合わない。学年で1か月に3回の割り当てがあり、原告ら第3学年は、担当が3人いるため、1か月に1人当たり1回行うことになる。

(中略)その日の勤務は、どんなに早く勤務を終了しても、7時30分出勤、17時退勤となり、休憩時間45分を差し引いた勤務時間は8時間45分となる。このように、教員に対して正規の勤務時間外の業務を命じることは、労働基準法32条に明らかに違反している。

そこで、原告は、4月の職員会議において、朝の登校指導はやめるべきであること(中略)を提案した。しかし、職員会議を主宰する校長からの回答は、「昨年度と同様でお願いしたい」というものであり、(中略)結局、職員会議は校長が主宰するため、校長の命により、登校指導は昨年度と同様に実施されることになったのである。

【原告準備書面3より】

県の答弁 割り当ては教員で構成する生徒指導部が計画し、校長が各教員に協力依頼を行ったものであり、校長が割り当てたものではない。

【被告準備書面3より】

原告先生 登校指導は、校長が主宰する職員会議によって実施が決定され、各学年の担任教員に担当日と担当場所が割り振られていたものである(甲31)。したがって、校長の「協力依頼」に応じて教員が自主的に協力していたものではなく、校長の明確な関与の下、教員がその職務を全うするために行われていたものであり、登校指導に従事する時間は、労基法上の労働時間に当たることが明らかである。(中略)本来、校長は、勤務時間外に登校指導を行うことを教員に命じてはならないはずである(労基法32条、給特法6条1項)。

【第5回原告準備書面より】

県の答弁 校長は登校指導を命じておらず、各教員に協力依頼をしたのであり、校長は協力してくれた教員に対して、勤務時間の割り振り変更を行ったのである。なお、個々の事情により、登校指導に参加しない教員もいたが、その事について、校長から指導をしたことはない。
今回の原告先生の反論

被告の主張は、平成12年の学校教育法施行規則改正前の法令を前提とした議論である。平成12年の改正により、職員会議は、学校の管理運営に関する校長の権限と責任を前提として、校長が主宰し、その職務の円滑な執行を補助する機関として位置づけられた。

上記法令の趣旨を徹底させるため、文部科学省からは、平成26年6月27日付で、職員会議の運用について、以下の①②を内容とする通知が出されている。

①教職員の互選等により選ばれた議長団等の組織を設置し、校長以外の職員を議長とし、当該議長が職員会議を主宰することは、校長の権限を実質的に制約することから不適切であり、行うべきではないこと
挙手投票等の方法により、校長が自らの権限と責任において決定すべき事項について決定したり、校長の権限を実質的に制約したりすることは、法令等の趣旨に反し不適切であり、行うべきでないこと

そして、上記に反する規程や慣行が存在する場合には、速やかに規程や慣行の廃止・修正や学校への指導を行うことを各教育委員会に求めている。このように、平成12年の改正により、職員会議の性質は大きく変化した。すなわち、職員会議は、教員が話し合いや多数決によって決定する場ではないことが明確となった。職員会議によって決定された事項は、教職員間の協議に基づき、各教職員が自主的に協力するという性質のものではなく、校長が自らの権限と責任において決定した、校長による業務命令の性質を有しているのである。

(中略)なお、職員会議を経て決定される事項については、校長に任命された「○○主任」を中心とする「○○部会」といった、校務分掌で割り振られた組織・役職によって、会議資料の作成や具体的な業務の提案が行われることが多い。もっとも、これらは、学校運営を円滑に行うために校長から分任(任命)された職務であるから、校長の補助機関としての法的性質を有している。各機関では、校長の指導の下、校長の意向に沿った形で種々の業務の計画立案を行い、職員会議において提案する。そして、提案された業務を校長が承認・決定することで、教員の仕事が作り出されるのである。したがって、校務分掌で割り振られた組織・役職名により資料の作成や業務の提案が行われていることは、職員会議を通じて各教員に割り当てられた業務が校長によって命じられた業務であることを否定する事情にはならない。

登校指導についてこれを見ると、まず、割り当てを計画した安全教育部は、校務分掌により校長から業務を割り振られたものである。そして、安全教育部からの提案を受けて、職員会議を経て決定された事項は、校長による業務命令の性質を帯びることになる。実際、原告は、平成30年4月の職員会議において、勤務時間開始前に行われる朝の登校指導はやめるべきであると主張したが、校長の判断により、従前通りの実施が決定された。そして、職員会議を経て決定した以上、それは上司からの業務命令であるから、個々の教員がその決定に逆らうことは不可能である。このように、校長は登校指導を教員に「命じた」のであって、これを各教員への「協力依頼」に過ぎないと評価することはできない。たとえ校長が「命令する」「命じる」という言葉を用いなかったとしても、職員会議で決められたことは、教員にとっては校長に命じられた業務を意味するのであって、それが「命令」であったり「協力依頼」「お願い」であったりすることはない。

【原告準備書面7より】

今回の県の答弁 ・職員会議については、平成12年以前も行われており、それまで職員会議についての法令上の根拠が明確ではなかったため、職員会議の意義・役割を明確化したのであり、校長に新たな権限を付与したものではない。

・職員会議では、校務分掌に基づく各主任から教育活動に係る様々な提案がなされ、教職員の考えを十分に聞いた上で、校長が了承し決定している。職員会議の前には、校長と教員で構成する運営委員会が開かれ、建設的な話し合いの下に必要に応じて提案の修正が行われた。また、運営委員会でまとまった案を職員会議の場で再度協議する中で、問題点が明らかになった場合は、 当初の案が変更されることが何度もあったのであり、校長の独断により決定されることが多々あったとする原告の主張は誤りである。

・校長が指示した業務については、仮に反対意見があっても教員に行わせることができることは認め、その余は否認する。 職員会議は諮問機関ではなく、「校長の職務の円滑な執行を補助するもの」である。

【被告準備書面4より】

勤務開始前のライン引きについて

勤務開始前に行わなければならない校庭のライン引きについて、前回までに原告先生は労働基準法違反を主張していますが、県は「前日の放課後に行う事も可能」と主張していました。今回原告先生は、下記のように「月曜日に前日の放課後にライン引きを行うことは不可能」と反論しています。

原告先生 勤務開始時刻前より週2回の校庭のライン引き業務が割り当てられている。

【原告準備書面3より】

県の答弁 校庭のライン引きが週2回割り当てられていることは認める。(中略)校庭のライン引きは前日の放課後に行う事も可能であり、勤務時間開始時刻よりも前の時間帯に行わなければならないわけではない。

【被告準備書面3より】

今回の原告先生の反論

校庭のライン引きを前日の放課後に行うことが可能であること自体は否定しないが、仮に前日の放課後に行った場合、休憩時間中や勤務終了時刻よりも後の時間帯に行わなければならない業務が増えるだけであり、結局、勤務時間外の業務を強いられることに変わりはない。なお、ライン引きの担当が月曜日であった場合、前日の放課後にライン引きを行うことは不可能である(原告は、平成31年度の2学期は月曜日にライン引きを担当していた)。

【原告準備書面7より】

超勤4項目外の時間外勤務について(法律論)

前回までに、超勤4項目以外の時間外勤務命令は「発生し得ない」とする県に対して、原告先生は校長が時間外勤務命令を行ったかではなく『労働させたか否か』が問題であると主張していました。今回改めてこれまでの主張を補足する、給特法が労基法32条の解釈を変更するものではない旨、述べています。

県の答弁 『超勤4項目』以外の業務について時間外勤務命令を行うことはできないため、そもそも時間外勤務命令に基づく時間外勤務は発生し得ない。
原告先生 本件でまず問題とすべきは、校長が「時間外勤務命令」を行ったか否かではなく、校長が原告を「労働させ」たか否か(原告の勤務が労基法上の労働時間に該当するか否か)である。
県の答弁 争う。 教員には給特法が適用されており、時間外勤務の考え方については従前の主張のとおり
今回の原告先生の反論 被告は、公立学校の教員には給特法が適用されており、一般の労働者とは異なる旨主張する。しかし、給特法は、公立学校の教員にも適用される強行法規である労基法32条の適用場面(解釈)を変更するものではない。給特法には、そのような内容は一切規定されていない。

(中略)教員にも労働時間規制が適用され、教育委員会や校長には適正に勤務時間管理を行う責務が課されていることは、中央教育審議会が平成31年1月25日付で発表した「答申」の16頁以下でも明記されている。すなわち、「答申」は、教員には労基法32条、34条、労働安全衛生法の規定が適用されること、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日)が公立学校の教員にも適用されることを確認した上で、「勤務時間管理は、労働法制上、校長や服務監督権者である教育委員会等に求められている責務」であり、「全ての教職員の勤務時間を把握することは不可欠である」「まずもって勤務時間管理の徹底を図ることが必要である」と指摘している。

したがって、給特法の適用を理由として、公立学校の教員について労働時間規制を緩やかに解することは許されない。教育委員会や校長は、給特法の下でも、教員が勤務時間外に業務に従事することのないよう、厳格に勤務時間管理を行わなければならないのである。

【原告準備書面7より】

◆今回の県の答弁

勤務開始時刻について

前回までに原告先生は、8時30分からの勤務開始にもかかわらず、朝読書やチャレンジタイム、朝会・集会の開始が同時刻に設定されていることから、現実的には勤務開始時刻より前から勤務せざるを得ないと主張していましたが、今回この点について県からの答弁が下記のとおりありました。

原告先生 月曜日は、「国語タイム」の準備を行う。原告は、事前に自習プリントを印刷して用意しておき、8時25分までには、自習プリントを配布して児童に自習を指示し、8時30分から自習が開始できる体制を整える必要があった。(中略)同様に、木曜日は、「算数タイム」の準備を行う。

(中略)火曜日は、8時30分から「朝読書」が始まるため、原告は、8時25分頃には教室に到着しなければならなかった。

(中略)水曜日は、全児童と教職員が集合する「朝会」がある。原告は、8時20分には教室に戻り、教室で児童に無言移動・無言待機の指導をした上で、教室の後ろに児童を並ばせ、児童を先導して体育館に移動させなければならなかった。

(中略)金曜日も同様に、8時30分から「朝チャレンジタイム」が始まるため、原告は、8時25分には教室に到着するよう(中略)準備を開始していなければならなかった。

【原告準備書面5より】

今回の県の答弁 ・8時30分から「朝チャレンジタイム(朝チャレ)」が始まることは認め、その余は否認ないし争う。

・校長から教員に対して、5分前行動を求めたことはない。また、8時20分に出勤し、8時25分に教室に到着するよう校長から教員に求めたこともない。なお、出勤時間や教室に向かう時間は各教員によってまちまちである。

・校長から原告に対して8時20分までに出勤し、8時25分までに教室に到着するよう指示をしたことはない。

・8時25分には児童と教職員の全員が体育館に集まるよう校長から原告に指示をしたことはない。また、8時20分以前から勤務を開始するよう指示をしたこともない。

【被告準備書面4より】

◆まとめ

本裁判、終盤に近づいてきました。

以前私は、埼玉教員超勤訴訟のポイントは、「職員会議の位置づけの変化」であると書きましたが、今回、職員会議について埼玉県教委から答弁がありました。

今回出された埼玉県教委の答弁は、「(平成12年の学校教育法改正により多数決が廃止された変更について)校長に新たな権限を付与したものではない」「教職員の考えを十分に聞いた上で、校長が了承し決定している」というものでした。

一方、従前からの原告先生の主張は、仮に多数の教員が反対しても校長の一存で決定される性質をもつ現在の職員会議で決定された業務は校長の命令であり、その業務が時間外に及ぶ場合は教員の自主的なものではなく労働・残業である、というものです。

裁判所が職員会議での決定について、県の主張どおり職員の総意として判断されるのか、あるいは原告先生の主張のとおり校長の業務命令と判断されるのか、注目です。

また、多くの学校でも問題になっている、勤務開始時刻=集会・学習開始時刻についても今回県からの答弁がありました。

県の答弁は、「8時25分(勤務開始5分前)に教室に到着するよう校長から教員に求めたことはない」というものでした。

この答弁について個人的には憤慨していますが、それはさておき、この点についても、裁判所は県の主張どおり直接命令していないのだから問題ないと判断するのか、それとも実質的に勤務開始時刻の前から労働せざるを得ないものとして原告先生の訴えを認めるのか、注目です。

遅くとも今年中には地裁判決が下されるはずです。